哀願あいがん)” の例文
かれのこのくわだてをわたしが見破みやぶると、もちろん麦菓子むぎがしをやることをやめたが、かれは弱らなかった。まずかれは哀願あいがんするような目つきでそれをもとめた。
わしのそでをつかんで、おゝ妻は妊娠にんしんだったのだ。わしは無礼ぶれいな野武士らの前にひざまずいて、乞食こじきのごとくに哀願あいがんした。ただ出発をほんの五分間延ばすことを。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ごくまれに、父は発作的ほっさてきにわたしに好意を示しはしたが、それは決して、口にこそ出さないが一目でそれと察せられる私の哀願あいがんによって、ひき起されたものではない。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
なんとかいわれたら、こんなふうにわびようと、道々口の中でくりかえしてきた哀願あいがんのことばが口の中でとまどいするのが感ぜられた。だがむろんわるい心地ではなかった。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
やがてすっかり立ちあがると、ゆっくり遠ざかって行った。みんなはかれを呼んだ——はじめはいきおいよく、やがて心配そうに、哀願あいがんするように。かれは耳をかさなかった。
『しかしきみわたしなにもワルシャワへ必要ひつよういのだから、きみ一人ひとりたまえ、そうしてわたしをどうぞさき故郷こきょうかえしてください。』アンドレイ、エヒミチは哀願あいがんするようにうた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
父の言葉は、云い付けと云うよりも哀願あいがんだった。父としての力も、権威もなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
が、すぐ博士は元にかえって、そのような乱暴は思いとどまってくれと哀願あいがんした。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、あとは、御用! 神妙にいたせ! と怒声がひとつにゆらいで渦を巻いたが、そのどよめきの切れ目から恨みにかすれる左膳の咽喉が哀願あいがんの声を振り絞っているのがかすかに聞こえた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
次郎はいくらかはにかみながらも、哀願あいがんするように言った。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
かれは警部にこう哀願あいがんした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
俊寛 (哀願あいがんに満ちたる調子にて)あなたはわしを見捨ててはくださらぬだろう。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
わたしたちの空腹くうふくはいよいよやりきれなくなってきた。犬たちは哀願あいがんするような目つきをたえずわたしに向けた。そしてジョリクールはおなかをさすって、おこって、きゃっきゃっとさけんでいた。
瑠璃子は、涙にれた頬に、さびしい哀願あいがんの微笑をたたえた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と僕は哀願あいがんした。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
俊寛 (哀願あいがんにみちたる調子にて)ちかってくれ。愛を誓ってくれ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)