吾妻下駄あづまげた)” の例文
返事をきくと、おいとれですつかり安心したものゝごとくすた/\路地ろぢ溝板どぶいた吾妻下駄あづまげたに踏みならし振返ふりかへりもせずに行つてしまつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そのがけ下の民家からは炊煙が夕靄ゆうもやと一緒になって海のほうにたなびいていた。波打ちぎわの砂はいいほどに湿って葉子の吾妻下駄あづまげたの歯を吸った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あいの小弁慶の衣服きもの八反はったん黒繻子くろじゅす腹合はらあわせの帯を引掛ひっかけに締め、吾妻下駄あづまげた穿いて参りますのを、男が目を付けますが、此の女はたぎって美人と云う程ではありませんが、どこか人好きのする顔で
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
本堂の中にと消えた若い芸者の姿すがたは再び階段の下にあらはれて仁王門にわうもんはうへと、素足すあし指先ゆびさき突掛つゝかけた吾妻下駄あづまげた内輪うちわに軽く踏みながら歩いてく。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
だれのものとも知らずそこにあった吾妻下駄あづまげたをつっかけて葉子は雨の中を玄関から走り出て倉地のあとを追った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あたりをかまはず橋板はしいたの上に吾妻下駄あづまげたならひゞきがして、小走こばしりに突然とつぜんいとがかけ寄つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)