古葛籠ふるつづら)” の例文
お時は戸棚の古葛籠ふるつづらの底を探したが、小柄の十吉の着物では間に合いそうもないので、彼女は二枚の女物を引き出した。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
始末のよい叔母は、田舎住居いなかずまいのそのころから持ち越して来た、茜木綿あかねもめんや麻の葉の型のついた着物をまた古葛籠ふるつづらの底から引っ張り出して来て眺めた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
下へ突込んで、鼠のかじった穴から、白いきれのはみ出した、中には白骨でもありそうな、薄気味の悪い古葛籠ふるつづらが一折。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小説かく道といひては原稿紙買ふ時西洋紙はよしたまへ、日本紙ならば反古ほごも押入の壁や古葛籠ふるつづらが張れて徳用とも答へがたく、さりとて万年筆は何じるしがよしともいひにくかるべし。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
出代でかはりや春さめ/″\と古葛籠ふるつづら
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
半七は先ず押入れをあけると、内には寝道具と一つの古葛籠ふるつづらがあった。葛籠には錠が卸してなかった。
貴下様あなたさま、もうこれ布子から単衣ひとえものと飛びまする処を、今日こんにちあたりはどういたして、また襯衣しゃつ股引ももひきなどを貴下様、下女の宿下り見まするように、古葛籠ふるつづら引覆ひっくりかえしますような事でござりまして
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
汽車の中でねむるにもその上へ白髪しらがの額を押当てて頂いた、勿体ない、鼠穴のある古葛籠ふるつづらを、仏壇のない押入の上段うわだんに据えて、上へ、お仏像と先祖代々の位牌いはいを飾って、今朝も手向けた一もん蝋燭ろうそく
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼓の調しらべを渡して、小袖の土用干をなさる時ばかり、花ももみじも一時いっときに、城も御殿もうらやましくないとお思いなすった、その記念かたみまで……箪笥たんすはもうない、古葛籠ふるつづらの底から、……お墓の黒髪に枕させた