取詰とりつ)” の例文
ぐっと取詰とりつめて、気が違った日は、晩方、髪結かみゆいさんが来て、鏡台に向っていた時ですって。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その日会社を首になった笠森仙太郎は、白紙の答案を出すような心持で、社長邸の奥庭に忍びこみ植込の蔭に身を潜めて、令嬢美奈子の部屋を、そっと覗くほど取詰とりつめておりました。
大鷲おおわしつばさ打襲うちかさねたるおもむきして、左右から苗代田なわしろだ取詰とりつむる峰のつま一重ひとえ一重ひとえごとに迫って次第に狭く、奥のかた暗く行詰ゆきつまったあたり、ぶッつけなりの茅屋かややの窓は、山が開いたまなこに似て
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
謀叛人むほんにんが降つて湧いて、まる取詰とりつめたやうな騒動だ。将軍の住居すまいは大奥まで湧上わきあがつた。長袴ながばかますべる、上下かみしも蹴躓けつまずく、茶坊主ちゃぼうずは転ぶ、女中は泣く。追取刀おっとりがたなやり薙刀なぎなた。そのうち騎馬で乗出のりだした。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)