取囲とりま)” の例文
旧字:取圍
一同はお仙を取囲とりまいて種々なことを尋ねて見た。お仙は混雑した記憶を辿たどるという風で、手を振ったり、身体からだゆすったりして
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
気が抜けた様に懵乎ぼうつとして編輯局に入ると、主筆と竹山と、モ一人の洋服を着た見知らぬ男が、暖炉を取囲とりまいて、竹山が何か調子よく話して居た。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
やがて銀之助は応接室を出て、たもとの職員室へ来て見ると、丑松と文平の二人が他の教員に取囲とりまかれ乍らしきりに大火鉢の側で言争つて居る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
深く外套に身を包んで、人目を忍んで居るさへあるに、出迎への人々に取囲とりまかれて、自分と同じ方角を指して出掛けるとは。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
谷の一つの浅い部分は耕されて旧士族地を取囲とりまいているが、その桑畠や竹薮たけやぶうしろにしたところに桜井先生の住居すまいがあった。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夕飯ゆふはんは蔵裏の下座敷であつた。人々は丑松を取囲とりまいて、旅の疲労つかれを言慰めたり、帰省の様子を尋ねたりした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その時、大きなテエブルを取囲とりまいた学士達から手厚い弔辞くやみを受けた。濃情な皆川医学士は、お房のために和歌を一首作ったと言って、壁に懸けてある黒板の方を指して見せた。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
御仮屋おかりやの前のうまやには二百四十頭の牝馬めうまつないでありましたが、わけても殿下の亜剌比亜アラビア産にめあわせた三十四頭の牝馬と駒とは人目を引きました。この厩を四方から取囲とりまいて、見物が人山を築く。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
看護婦だの、身内のものだのが取囲とりまいている寝台の側に立って、皆川医学士はその学生らしい人にお房の病状を説明して聞かせた。そして、子供の足をでたり、腹部を指して見せたりした。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
高瀬の住む町からもさ程離れていないところで、細い坂道を一つ上れば体操教師の家の鍛冶かじ屋の店頭みせさきへ出られる。高い白壁の蔵が並んだ石垣の下に接して、竹薮たけやぶや水の流に取囲とりまかれた位置にある。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)