反魂香はんごんこう)” の例文
反魂香はんごんこうの煙が描いたという影像だけでも見る方法はないかとこんなことばかりが薫には思われて、女二にょにみやとの結婚の成立を待つ心もないのである。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
私は反魂香はんごんこうの話をしようと思います。或る種の香を焚くと、思う人のおもかげが目の前に現れるという、あの反魂香です。
仏頂寺は立派に腹を切りえた上に、咽喉をききっている。これは反魂香はんごんこうの力でも呼び生かすすべはない。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「また三段目か、もうええ、もうええ、今更そんなことを云うてもあかんこっちゃ。木偶に魂があってもうてもかまわん。〽魂かえす反魂香はんごんこう、名画の力もあるならば……」
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
反魂香はんごんこうに現れ来たる李夫人の幽霊、環形しょくに照らさるる楊貴妃ようきひの幽霊、『牡丹灯記ぼたんとうき』の幽霊のごとき美麗なのもあるが、近世となっては残酷な幽霊多く、『夜譚随録やたんずいろく』にて見るも
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
左右は一面じめ/\した泥炭地でいたんちで、反魂香はんごんこうの黄や沢桔梗さわぎきょうの紫や其他名を知らぬ草花が霜枯しもがれかゝった草を彩どって居る。煙草たばこの火でも落すと一月も二月もぷす/\くすぶって居ます、と案内者が云う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その木像まで刻むというは恋に親切で世間にうと唐土もろこしの天子様が反魂香はんごんこうたかれたよう白痴たわけと悪口をたたくはおまえの為を思うから、実はお辰めにわぬ昔とあきらめて奈良へ修業にいって、天晴あっぱれ名人となられ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
反魂香はんごんこうですか? まさか」
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それ位の事が解らなくて何んとしましょう。丁度幸い、此処に反魂香はんごんこうを持参いたして居ります。これを焚くと亡くなられた方の姿が、ありありと眼の前に現れ、在りし日と同じようなお話を
支那しなの昔にあったという反魂香はんごんこうも、恋しい父君のためにほしいとあこがれていた。暗くなってしまったころに兵部卿の宮のお使いが来た。こうした一瞬間は二女王の物思いも休んだはずである。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)