いかつ)” の例文
旧字:
「御免。」と掛けた声が可恐おそろしいかつい蛮音。薩摩訛さつまなまりに、あれえ、と云うと、飛上るやら、くるくる舞うやら、ぺたんと坐って動けぬやら。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ドニメ」と私はいかつい声で「少しお前に訊きたいものだ。今から丁度二十日程前だ、ボヘミアの奴等が来ただろう? 其奴そいつ何方どっちへ突っ走った?」
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
上向うわむきになった大きな鼻頭はながしらと、出張った頬骨ほおぼねとが、彼の顔に滑稽こっけいの相を与えていたが、が高いのと髪の毛が美しいのとで、洋服を着たときの彼ののっしりしたいかつい姿が
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
直角にいかつい肩を聳やかしている、その胸毛の底に白いしべを点じたのは雪である、アルプス一帯に雪の降るのは、それは早いもので、九月の末には、白くなるほどつもらぬまでも
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
紳士の態度には、何処となくいかついところがあって、はなむのにもおそろしく大きな音をたてる。一体どうしてやらかすのか分らないが、彼の鼻はまるで喇叭らっぱのような音をたてるのだ。
老宰相はいかつい眼をして夫人の顔を見たが、またおもいかえしたように
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
僧はいかつい親しみのない眼をしていた。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)