千曲川ちくまがは)” の例文
現に根本三之助の乱暴を働いた頃にも、その村の相談役で、千曲川ちくまがは投込はふりこんでしまへと決議した人の一人であつたといふ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「あれが淺間、こちらが蓼科たでしな、その向うが八ヶ岳、此處からは見えないがこの方角に千曲川ちくまがはが流れてゐるのです。」
みなかみ紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
一昨年をとゝしの夏帰省した時に比べると、うして千曲川ちくまがはの岸に添ふて、可懐なつかしい故郷の方へ帰つて行く丑松は、まあ自分で自分ながら、殆んど別の人のやうな心地がする。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私共の住んでゐた上田うへだの町裾を洗つてゐる千曲川ちくまがはの河原には、小石の間から河原蓬かはらよもぎがする/\と芽を出し初めて、町の空をおだやかな曲線でくぎつてゐる太郎山たらうやまは、もう紫に煙りかけてゐた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
しぶみ川、みなもと信越しんゑつさかひよりいで、越後ゑちごの内三十四里をながれて千曲川ちくまがはともなひ此海に入る。此川越後の○頸城くびき魚沼うをぬま○三嶋○古志こし四郡しぐんながるゝゆゑ、四府見しぶみ文字もんじならんかとおもひしにひが事也。
今は夕靄ゆふもやの群が千曲川ちくまがはの対岸をめて、高社山かうしやざん一帯の山脈も暗く沈んだ。西の空は急に深い焦茶こげちや色に変つたかと思ふと、やがて落ちて行く秋の日が最後の反射をに投げた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
其處から千曲川ちくまがはに沿うて下り、御牧が原に行つた。この高原は淺間の裾野と八ヶ岳の裾野との中間に位する樣な位置に在り、四方に窪地を持つて殆んど孤立した樣な高原となつて居る。
その二十七八の頃には三之助(親父の名)は村の為めに不利な事ばかり企らんでならぬ故いつそこもに巻いて千曲川ちくまがはに流して了はうではないかと故老の間に相談されたほどの悪漢であつたといふ事である。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
何時の間にか丑松は千曲川ちくまがはほとりへ出て来た。そこは『しもの渡し』と言つて、水に添ふ一帯の河原を下瞰みおろすやうな位置にある。渡しとは言ひ乍ら、船橋で、下高井の地方へと交通するところ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)