前後まえうしろ)” の例文
またぼうとなって、居心いごころすわらず、四畳半を燈火ともしび前後まえうしろ、障子に凭懸よりかかると、透間からふっと蛇のにおいが来そうで、驚いてって出る。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先生の顔を見るとまるで神様がお出でになったように前後まえうしろから取り付きまして、昨夜ゆうべからの事をすっかり話しました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「あれえ、何人だれか来てくださいッ」係の人が馳け付けて突然いきなり乃公の胸倉を捉えた。そして前後まえうしろに無暗と小突き廻す。乃公を埃の着いた外套と間違えたんだろう。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかし、右左みぎひだり前後まえうしろと見まわしても、何も見えません。次に保君の目は洞穴の天井を見上げました。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やがておおいなる古菰ふるごもを拾ひきつ、これに肴を包みて上よりなわをかけ。くだんの弓をさし入れて、人間ひと駕籠かごなど扛くやうに、二匹前後まえうしろにこれをになひ、金眸が洞へと急ぎけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
屋根の形も四方葺しほうぶきでなく、切妻きりづまと称して前後まえうしろは壁になったものが多い。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と、前後まえうしろの屋台の間に、市女いちめの姫の第五人目で、お珊が朗かな声を掛けた。背後うしろに二人、朱の台傘をひさしより高々と地摺じずれの黒髪にさしかけたのは、白丁扮装はくちょうでたち駕寵かご人足。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)