内懷うちぶところ)” の例文
新字:内懐
「癪なんてものは、紙入に入れてよ、内懷うちぶところにしまひ込んで置くもんだ——お前見たいに鼻の先へブラ下げて歩くから、餘計なものにさはるぢやないか」
銭形平次捕物控:124 唖娘 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
宗助そうすけはそれを洋服やうふく内懷うちぶところんで汽車きしやつた。約束やくそく興津おきつたときかれ一人ひとりでプラツトフオームへりて、細長ほそなが一筋町ひとすぢまち清見寺せいけんじはうあるいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
兩方りやうはうかた兩袖りやうそで一所いつしよ一寸ちよつとゆすつて、内懷うちぶところ紙入かみいれから十圓じふゑんなり、やつぱり一錢いつせんいたゞいた。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
内懷うちぶところの肌に付けて、其の日はいそ/\と家の事を働いてゐると、お正午ひる少し前にあるきの猪之介が來て、寢耳に水のやうに、其の大事の/\六日の晩には兵隊が來て泊るといふことを知らした。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「呆れた野郎だ。十手なんか内懷うちぶところに突つ張らかして、僅かばかりの湯錢を誤魔化ごまかしやしめえな」
内懷うちぶところ隻手せきしゆいんむすんで、むねびたい、とおもふくらゐである。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)