八雲琴やくもごと)” の例文
琴台きんだいの上に乗せてあるのは、二げん焼桐やきぎり八雲琴やくもごと、心しずかにかなでている。そして、ふとことの手をやめ、蛾次郎がじろうのほうをふりかえった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
追々薄紙はくしぐが如くにえ行きて、はては、とこの上に起き上られ、妾の月琴げっきんと兄上の八雲琴やくもごとに和して、すこやかに今様いまようを歌い出で給う。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
前なるお美津は、小鼓に八雲琴やくもごと、六人ずつが両側に、ハオ、イヤ、と拍子を取って、金蒔絵きんまきえ銀鋲ぎんびょう打った欄干づき、やぼねも漆の車屋台に、前囃子まえばやしとて楽を奏する、その十二人と同じ風俗。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ってでる敵はなかったが、どこからともなく幽玄ゆうげん妙音みょうおんをまろばしてくる八雲琴やくもごとがあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生花いけばな、裁縫、諸礼、一式を教えられ、なお男子の如く挙動ふるまいし妾を女子らしからしむるには、音楽もて心をやわらぐるにかずとて、八雲琴やくもごと、月琴などさえ日課の中に据えられぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
白の狩衣、紅梅小袖、ともしびの影にちらちらと、囃子の舞妓、芸妓など、霧に揺据ゆりすわって、小鼓、八雲琴やくもごと調しらべを休むと、後囃子あとばやしなる素袍の稚児が、浅葱桜あさぎざくらを織交ぜて、すりがね、太鼓のも憩う。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人々には少しも気分にさはりなきむねを答へ、胸の苦痛を忍び/\て、只管ひたすら母上の全快を祈る程に、追々おひ/\薄紙はくしぐが如くにえ行きて、はては、とこの上に起き上られ、せふ月琴げつきんと兄上の八雲琴やくもごとに和して
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)