全然まるきり)” の例文
大槻が転居するという噂は、私にとって全然まるきり他事よそごとのようには思われなかった、私はそれとなく駅長の細君に、聞いて見たが噂は全く事実であった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「先生! どうしてこの頃は全然まるきりお見えになりません?」倉蔵はないない様子を知りながら素知らぬ風で問うた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
全体水蛇は尾が海蛇のようにひらたからず、また海蛇は陸で運動し得ず、皮を替えるに蜥蜴同然片々に裂け落ちるに、水蛇は陸にも上りある全然まるきり皮を脱ぐ。
今日は家の者はみんな御機嫌が悪い。乃公の顔を見ると白い眼をする。お島の談話はなしによると、乃公のお蔭で大略あらまし出来かけていた下話したばなし全然まるきり毀れて了ったのだそうだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
無論他人ひとに教へるつもりで讀んでゐるのではないし、他人に見せるために作つてゐるのではないし、正格せいかくでないことは常に承知してゐるが、全然まるきり無價値だとこの兄に極められると
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
デミトリチのひだりはうとなりは、猶太人ジウのモイセイカであるが、みぎはうにゐるものは、全然まるきり意味いみかほをしてゐる、油切あぶらぎつて、眞圓まんまる農夫のうふうから、思慮しりよも、感覺かんかく皆無かいむになつて、うごきもせぬ大食おほぐひな
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「ああ違うとも、全然まるきり違うよ。俺は大いに迷惑だ」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「内の方へも全然まるきり爾来あれからの様子は知れないの?」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「出来ないからって白紙を出すようじゃお話にならない。全然まるきり見当のつかんことはないんだから、何か書くんだね。間違っていても書いてさえあれば、先生によっては書き賃をくれるよ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
二人の胸のうちまこと苦悩くるしみ全然まるきり知らないのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)