儒者じゅしゃ)” の例文
幕府の儒者じゅしゃ筑後守ちくごのかみ新井白石あらいはくせきにいいつけられて、聖書の洋語を拾って和訳することが、ここ数年、かれの仕事とされていました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昔でいうと、儒者じゅしゃの家へ切支丹キリシタンにおいを持ち込むように、私の持って帰るものは父とも母とも調和しなかった。無論私はそれを隠していた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もとは伊勢藩の儒者じゅしゃの子とだけ判っていて、発明にったため頭がおかしくなっていると当時噂されていました。むっつりして眼鼻立ちが立派についている。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
薄茶紬うすちゃつむぎ道行みちゆきに短い道中差、絹の股引に結付草履ゆいつけぞうりという、まるで摘草にでも行くような手軽ないでたち。茶筅ちゃせんの先を妙にへし折って、儒者じゅしゃともつかず俳諧師はいかいしともつかぬ奇妙な髪。
今から三百年ほど前、園部旦斎そのべたんさいという学者が、偶然、江戸(東京)で、その書面を手に入れることになった。旦斎は、東北のある藩の儒者じゅしゃ——殿様に漢学を教えていた学者だった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
儒者じゅしゃと違って、先王の価値にも歴史家的な割引をすることを知っていた彼は、後王たる武帝の評価の上にも、私怨しえんのために狂いを来たさせることはなかった。なんといっても武帝は大君主である。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
だから耶蘇教徒は父のために存在している。儒者じゅしゃ孔子こうしのために生きている。孔子もいにしえの人である。だから儒者は父のために生きている。……
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その関所の西口から急落している石段を、今、ひとりの儒者じゅしゃふうの男、肩からひも合財袋がっさいぶくろ小瓢こふくべをさげ、その小瓢のごとく飄々乎ひょうひょうことして降りてくる。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おう、ご番卒でございますか。てまえは、泰山たいざん儒者じゅしゃですが、諸国遊歴がてら、うらないを売って旅費とし、また諸山の学問をきわめんとしている者でございまする」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
派手はでで門戸を張って、家族の生活までが、都風に化されていたが、小野寺家は、京の町中にありながら、殆ど、郷土いなかの風をそのまま、一儒者じゅしゃの住居ぐらいな小門とまがきの中に
朱子しゅし学派の一儒者じゅしゃだったが、あるとき聖堂の石段で、いきなりワンと噛みついてきた赤犬を、意識的にか、思わずか、蹴とばしたので、家に帰るやいな、捕手とりてを迎えぬうちに、切腹してしまった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)