さかし)” の例文
パヴィースと云うて三角をさかしまにして全身をおおう位な大きさに作られたものとも違う。ギージという革紐かわひもにて肩から釣るす種類でもない。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
空にふらふらとなり、しなしなとして、按摩の手のうちに糸の乱るるがごとくもつれて、えんなまめかしい上掻うわがい下掻したがい、ただ卍巴まんじともえに降る雪の中をさかし歩行あるく風情になる。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
芽の大きくなつた並木の MARRONNIER は、軒並みに並んでゐる珈琲店カフエの明りで梢の方からさかしまに照されて、紫がかつた灰色に果しも無く列つてみえる。
珈琲店より (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
水の面へさかしまに形を映して居る灰色の葦蘆や、幽霊じみた枯木の幹や、がらんとした眼玉のような窓の影を———嘗て覚えた事のない激しい戦慄に襲われながら———おろしたのであった。
それよりは矛をさかしまにして、とかく一郎の事を悪しざまにいふ、曰く因縁御存じなき奥方は、これをも三が忠勤の一ツには数へたまひながら、相変らず襟一掛をとのお気は注かぬに、どれもこれもと
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
倒懸清影落江隈(さかしまに清影を懸けて江隈に落ち)
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)