信乃しの)” の例文
平次は一たん宅の市のところから歸つて來ると、其處へ、向柳原の八五郎の叔母さんが、伊八から預つた娘の信乃しのをつれてやつて來ました。
白粉おしろい臭い、汗くさい変な香がこもった中で、自分は信乃しの浜路はまじの幽霊と語るくだりを読んだ。夜のふけるにつれて、座敷のほうはだんだんにぎやかになる。
竜舌蘭 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
(私には限らない、当時の貸本屋フワンは誰でもだったが)信乃しの滸我こがへ発足する前晩浜路はまじが忍んで来る一節や、荒芽山あらめやま音音おとねの隠れ家に道節どうせつ荘介そうすけが邂逅する一条ひとくだり
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
Mの次のへ引きとったのち、僕は座蒲団ざぶとんを枕にしながら、里見八犬伝さとみはっけんでんを読みはじめた。きのう僕の読みかけたのは信乃しの現八げんぱち小文吾こぶんごなどの荘助そうすけを救いに出かけるところだった。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
芸者が臥所ふしどへ来た時、君は浜路はまじに襲われた犬塚いぬづか信乃しののように、夜具を片附けて、開き直って用向を尋ねた。さて芸者の詞を飽くまで真面目に聞いて、旨く敬して遠ざけたのである。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
犬山道節どうせつが森鴎外で、色は黒、花では紫苑しおん犬飼現八いぬかいげんぱちは森田思軒で、紫に猿猴杉えんこうすぎ。犬塚信乃しのが尾崎紅葉で緋色ひいろ芙蓉ふよう。犬田小文吾こぶんごが幸田露伴、栗とカリン。大法師が坪内逍遥で白とタコ。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
小説的かも知れんけれど、八犬伝はつけんでん浜路はまじだ、信乃しの明朝あしたは立つて了ふと云ふので、親の目を忍んで夜更よふけひに来る、あの情合じやうあひでなければならない。いや、妙だ! 自分の身の上も信乃に似てゐる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「これが錢形の親分さんよ。信乃しのちやんの親の敵を討つてくれるのは、此人の外にないのだから、よくお願して置くんだよ」
三国志さんごくしなどを引っぱり出し、おなじみの信乃しの道節どうせつ孔明こうめい関羽かんうに親しむ。
竜舌蘭 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
江戸は『八犬伝』の中心舞台で、信乃しのが生れ額蔵がくぞうが育った大塚おおつかを外にしても神田かんだとか湯嶋ゆしまとか本郷ほんごうとかいう地名は出るが「江戸」という地名は見えない。江戸城を匂わせるような城も見えない。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
たなざらしなんかぢやありません。枝からもぎ立ての、桃のやうな小娘で、名はお信乃しの、可愛らしい名でせう」