侍医じい)” の例文
皇帝はすぐとね床をとびおきて、侍医じいをおめしになりました。でも、それがなんの役にたつでしょう。そこで時計屋とけいやをよびにやりました。
「僕は侍医じいの役目として」と、ルーシンは答えた。——「その女王をいさめますな。お客どころでない非常時に、舞踏会なんか催さないようにね。……」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
勝豊の侍医じいは、船中に囲いをしつらえて薬を煮、湖をわたる寒風を気づかった。しかし勝豊は、毅然きぜんと坐して、つとめて、利家や五郎八などと談笑していた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元園町もとぞのちょうには竹内たけのうちさんという宮内省の侍医じいが住んでいて、新年には必ずこの獅子舞を呼び入れて色々の芸を演じさせ、この日に限って近所の小児こどもやしきへ入れて見物させる。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たまたまアシュル・バニ・アパル大王が病にかかられた。侍医じいのアラッド・ナナは、この病軽からずと見て、大王のご衣裳を借り、自らこれをまとうて、アッシリヤ王にふんした。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
御用心ごようじんあそばさないといけません。あの童子どうじ詐欺師さぎしでございます。おそれながら、陛下へいかのおやまい侍医じい方々かたがたや、わたくしども丹誠たんせいで、もうそろそろ御平癒ごへいゆになるときになっておりました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
この検死をふもとの医者にでも頼んだらたちまち新聞記者の耳にれて問題にされるでしょうし、相談の結果、恐る恐る侍医じいの先生に一切を報告してお願いすることにしたのですが、そこは慣れたもので
浴槽 (新字新仮名) / 大坪砂男(著)
井上玄桐いのうえげんどうという侍医じい大森典膳おおもりてんぜんという老職ろうしょく、そのほか、御物書おものがき鹿野文八かのぶんぱち、用人の剣持与平けんもちよへいにいたるまで、日ごろ側近く召使われている顔はことごとく列に見える。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
侍医じい鈴木宗典すずきそうてんが、それのすむのを待って、すぐまかり出た。侍医はいるが健康になお自信のある老公は、今日はよい、という日もあり、黙って脈をさせる朝もある。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かがみから廊下へ通じるあいだにも、一段低い部屋がある。介三郎はそこへ向って、玄桐どの、老公のお召しですと、声をかけた。侍医じいの玄桐は、役目がらすぐ鏡の間へはいった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)