たとえ)” の例文
たとえを申したのじゃ。何も難しい意味ではない。そなたが嫁ぐ山木判官兼隆は、幸いにも、平氏の同族。——末長う、貞節にかしずけよ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又は変態怪奇を極めた所業しわざを平気で演じて行くたとえは、随分沢山に伝わっておりますので……いわんや若林博士のような特殊な体質と頭脳を持った人間が
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そうじゃないのよ。そうじゃないけれども——まあたとえに云うと、あの小野さんと云う方があるでしょう」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
永いもののたとえにされている、春の日も暮れて夜となり、下鍛冶屋宿、上鍛冶屋宿、住吉、畔、高台寺、甲府の城下へはいった頃には、一番鶏の啼くほどの、深い夜となっていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたくしどもが浅慮あさはかな考えから思って見ますると、早いたとえが、我々どもでも何か考えごとをして居りますときは、側で他人様ひとさまから話を仕掛けられましても精神がほかせて居りますので
たとえば書方を学ぶにしても同じ先生の弟子は十人が十人全く同じような字を書いて居るが、だんだん年をとって経験を積み一個の見識が出来るに従っておのずかおのおのの持前の特色が現われて来て
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
大きみの千世のたとえと老がつむ
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「あなたは、愛してござる男と、絶えず離れておるかたちじゃ。それがよくない。去る者うとしというたとえに洩れぬ方じゃ。なるべくその男の側を離れぬがよい。殊に、土地を離れたらこの縁は切れますぞ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)