佐伯さえき)” の例文
佐伯さえき伊太知いたちとか、大伴おおともくじらおおし黒鯛くろだいなどは史上にも見える人物だし、丹念にさがせば、そんな類の名は、まだいくらでもあるだろう。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南谷は佐伯さえき毛利もうり伊勢守高標たかすえの実弟にして旗本滝川大学利広の養子となり、寛政十年より甲府勤番支配の職にあったのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「もう着いた時分だね。公使館の佐伯さえきと云う人が持って来てくれるはずだ。——何にもないだろう——書物が少しあるかな」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大伴・佐伯さえきの数知れぬ家々・人々が、外の大伴へ、頭をさげるようになってはならぬ。こう考えて来た家持の心の動揺などには、思いよりもせぬ風で
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ここ迄話して来た佐伯さえき氏は、椅子からヒョイと立ち上ると、ひどく異国的の革財布を、蒐集棚から取り出した。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
岩下? 読者は恐らく、ここで疑惑のまなこを私に向けるであろう。なぜなら、私の家は佐伯さえきであるのに父の母の家が佐伯ではなくして岩下となっているからである。
僕の名はね、佐伯さえき五一郎って言うんだよ。覚えて置いてね。僕は、きっと御恩返しをしてやるよ。君は、いい人だね。泣いたりなんかして、僕は、だらしがないなあ。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
在昔常陸には蝦夷すなわち山の佐伯さえき、野の佐伯のほかに、土蜘蛛すなわち八掬脛やつかはぎなるものの住せしことを説けるによりて、いっそうこの説に根拠あらしめ、ために余もまたかつて
武士を夷ということの考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
二等運転士佐伯さえき、怪星を前方に発見す、太陽系遊星にあらず、彗星にあらず、軌道法則にしたがわずふしんなり。ただいま突然、怪星怪光をあげて輝き、にわかにわれに接近す。われいまや怪星かいせいガン
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
ヒガンボウズ 安芸佐伯さえき
あくる朝、ここを立つさい、彼は篠村八幡宮へ佐伯さえきしょうの一部を寄進して、所願成就しょがんじょうじゅの祈りをこめた。そのとき今川範国のりくに
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
佐伯さえきの叔母も安之助やすのすけもその後とんと宗助そうすけうちへは見えなかった。宗助はもとより麹町こうじまちへ行く余暇をたなかった。またそれだけの興味もなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
釣瓶つるべをツブレ、かぶらをカルバ、汐平しおひをヒオシという地方のあるのもまた同じことで、古くは佐伯さえきを「さけび」の訛だと解し、近くはモスリンをメリンスの転音なども、また同一のものである。
きょうは、御両所のお帰りのあとで、木村と佐伯さえきが遊びに来た。もうこんな、つまらない中学生とは遊ばない決心をしていたのであるが、やはり遊んでしまった。トランプ。ツウテンジャック。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
東京へ出て来ても、依然として重い荷におさえつけられていた。佐伯さえきの家とは親しい関係が結べなくなった。叔父は死んだ。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蝦夷を古語に佐伯さえきと申しました。
本州における蝦夷の末路 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「兄さん、佐伯さえきの方はいったいどうなるんでしょう。先刻さっき姉さんから聞いたら、今日手紙を出して下すったそうですが」
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はその話を書生の佐伯さえきから聞いたのである。もっとも佐伯のようなものが、まだ事のまとまらない先から、奥のくわしい話を知ろうはずがなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)