他所目よそめ)” の例文
親子といいがたきは勿論もちろん、また兄弟姉妹の間柄とも異なりて、他所目よそめには如何いかに見えけん、当時妾はひたすらに虚栄心功名心にあくがれつつ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
養子に離れ、娘にも妻にも取り残されて、今は形影相弔あいちょうするばかりの主人は、他所目よそめには一向悲しそうにも見えず、相変らず店の塵をはたいている。
やもり物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しばらくすると、つかつかと玄関へ現れたのは、写真や他所目よそめには、たびたび見たことのあるM侯爵のにこにこした丸顔です。僕を見ると軽く会釈して
M侯爵と写真師 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その時は己ももう十三だ。己の心では姦夫姦婦の恥しらずめ! という想いが絶えずあって、沈鬱な偏屈な子供らしくない子供と他所目よそめには見えたに相違ない。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
他所目よそめには大所おおどこ御新造ごしんぞさんのように見えます、その貴女が、……やっぱり苦界、いずれ苦の娑婆しゃばでござります。それにつけましても孫が可愛うございますので、はい。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その気の毒な運命のほどは、めさせられている当の妻子たちは無論のことだが、嘗めさせつつ我を忘れている当人も、他所目よそめほどには楽でもあるまい、妻子には済むまい——
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
子の無い処の孫であるから、祖父祖母の寵愛ちようあい一方ひとかたではなく、一にも孫、二にも孫と畳にも置かぬほどにちやほやして、その寵愛する様は、他所目よそめにも可笑をかしい程であつたといふ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
仕事は受付、笠森仙太郎に比べて、まことに気の毒な地位でしたが、努力家の丹波丹六は、それを大した不足とも思わぬ様子で、実に他所目よそめにも痛々しいほどよく働き続けたのです。
「そんなことは他人ひとに云ふたつて仕方がありません。」と、辰男は冷やかに答へた。押し返して訊いても執念しふねく口を噤んで、他所目よそめには意地惡く見えるやうな表情を口端に漂はせた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
三年越し同棲いっしょに成って来たと云うが、苦味走った男振りも、変な話だが、邪慳じゃけんにされる所へ、細君の方が打ち込んで、随分乱暴で、他所目よそめにも非道いと思う事を為るが、何様どうにか治まって来た。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
どうかすると芝生の上に寝転がって他所目よそめにはぼんやり雲を眺めているそうである。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「ジャンダーク」を理想の人とし露西亜ロシアの虚無党をば無二むにの味方と心得たる頃なれば、両人ふたり交情あいだの如何に他所目よそめには見ゆるとも、妾のあずかり知らざる所、た、知らんとも思わざりし所なりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)