人集ひとだか)” の例文
戸外そとは大変な人集ひとだかりだ。もっとも、みんな火事と間ちがえているので、寝巻のまま飛び出して来たやつが、寒そうにどうぶるいしながら
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
人集ひとだかりを押しわけて、新らしく降って湧いた秘密と謎とを包みながら呻き倒れている弥太一のかたわらに、ずいと近よりました。
昼のうちはそんなでもなかったのが、いつ集まったか、盛んな人集ひとだかりで、一方の隅にかたまって博奕ばくちに夢中なのもありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
で、馬車のぐるりには見る見る黒山のような人集ひとだかりがして、村に残っているのは、老婆や赤ん坊だけという有様であった。挽革がほどかれた。
横丁を大通りへ出ると四辻よつつじの二、三軒手前に井杉灘屋という居酒店がある。その店先に黒山のような人集ひとだかりがしていた。
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
火鉢や茶箪笥ちゃだんすのような懐かしみのある所帯道具を置き並べた道具屋の夜店につづく松飾りや羽子板の店頭みせさきには通りきれぬばかりに人集ひとだかりがしていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ここに事故ことありと聞きつけて、通行の人集ひとだかりをはばかって、さりげなく知合が立話でもするごとく装おうとしたらしい。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
既に扉の締っている銀行の建物の前に大道占いが出ていて、そこに四五人の人集ひとだかりがしていた。見るともなしに覗くと、そこで手相を見てもらっているのは嘉吉であった。まあこの人ったら。
早春 (新字新仮名) / 小山清(著)
が二、三カ所人集ひとだかりがあった。その輪のどれからか八木節やぎぶしの「アッア——ア——」と尻上りにかん高くひびく唄が太鼓といっしょに聞えてきた。乗合自動車がグジョグジョな雪をはね飛ばしていった。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
梯子にまたがってさいぜんから、この様子を見ていた米友は、キリキリと歯を噛み鳴らして、丸い眼を据えて、狼藉ろうぜきを働く侍——いくら人集ひとだかりがあるといったからとて
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
長者町の筆屋の店頭みせさきは、さすが町内第一の豪家ごうかの棟上げだけあって、往来も出来ないほど、一ぱいの人集ひとだかりだ。紅白こうはくの小さな鏡餅をく。小粒を紙にひねったのをまく。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
後からあとから人集ひとだかりでしょう。すぐにざぶり! 差配おおやの天窓へ見当をつけたが狛犬こまいぬ驟雨ゆうだちがかかるようで、一番面白うございました、と向うのにごり屋へ来て高話をしますとね。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
兵馬は例のうわべだけの僧形そうぎょうで、神尾の屋敷の前まで来かかると、門前に人集ひとだかりがあります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
向うの真砂町の原は、真中あたり、火定の済んだ跡のように、寂しく中空へ立つ火気を包んで、黒く輪になって人集ひとだかり。寂寞ひっそりしたその原のへりを、この時通りかかった女が二人。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桟敷下のむしろの上へ胡坐あぐらをかいて、人集ひとだかりの模様には頓着なく、まず酒樽の酒を片口かたくちへうつして、それを茶碗へさして廻り、そこから蒟蒻こんにゃくや油揚や芋の煮しめの経木皮包きょうぎがわづつみを拡げ、ひやでその酒を飲み廻し
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)