不様ぶざま)” の例文
「何をぬかしくさる! おれは、きゃつのわざの早いのが恐るべきだちゅうんだ、岡崎がかわされて手をついた時の不様ぶざまってあっか」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
余りの不様ぶざまさ恥しさに、助けを求めることを躊躇ちゅうちょしている間に、大振子の一振り毎に、針は遠慮なく下って来た。最早や耐え難い痛みだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まるで轢死人れきしにんの両断した胴中の切れ目と切れ目の間を臓腑がねじれ会いながら橋渡しをしているとでもいいたいほど不様ぶざまな橋の有様だった。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この不様ぶざまな身なりは、「じだらくに居れば涼しき二階かな。」で、東京の気候の殊に暑さの甚しい季節にはもっとも適合している。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こんな筈ではなかったと思うのだが、自分の今の恰好を友達に見られたら随分不様ぶざまであろうという恐怖で益々ぎこちなく真赧になってしまうのだった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
彼らしい不様ぶざまな身ごしらへのためによけい目立つて、例のおきまりの大きな麦藁帽子や白シャツにもかゝはらず、遠くからでもすぐそれと見分がついた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
それは米国の馬商人うまあきんどが、馬市で取引きをする折、売物の馬に滅多に跳ねたり、飛んだり不様ぶざまな真似をさせないで
「大体、定法から行くと、彫青が終ってしまうまでは、男女の慾は禁物なのよ。皮膚がたるんだり、脂くさくなったりして、出来上りが不様ぶざまになるから……」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ひとりぼっち、客間の庭に不様ぶざまにされて忘られかけている石燈籠を眺めていると、この家の生活感情の推移が伸子の心にしみた。江田は律気な運転手の、古風な見栄のようなものをもっていた。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「ふみや、ちょっとこの木の枝を折っておくれ」と祖母の疳高かんだかい声が私を呼んだ。はっと思って私はあわてて本をふところの中に入れた。が何しろ四六判四百頁近い本なので懐は不様ぶざまにふくれ上っていた。
悪い顔を「ブス」、これも不様ぶざまのスケをつめてブス。
符牒の語源 (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
不様ぶざまに潰れた肉体が土饅頭と変り果て
サガレンの浮浪者 (新字新仮名) / 広海大治(著)
やがて、染奴の頭が、不様ぶざまなザンギリになっていることを知って、あらためて、みんなは仰天した。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
恋愛遊戯にかけては大胆にもせよ、物慣れぬ良家の女子は、こんな場合ひどく不様ぶざまである。…………………………、…………………………、……………、…………………。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いきなり逃げ出して、われながら不様ぶざまだった。
青春の逆説 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
彼は人間の顔さえ見れば、何の理由もなく、眼に一杯涙がき上った。そして、その内気さを隠す為に、あらぬ天井を眺めたり、ひらを使って、誠に不様ぶざまな恥かしい格好をしなければならなかった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)