下方したかた)” の例文
それから握飯の針のようなのを二ツずつ貰って食べる、帰ると三味線のお温習さらいをして、そのまま下方したかたの稽古にられる。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
北は荒川から南は玉川まで、うそもない一面の青舞台で、草の楽屋に虫の下方したかた,尾花の招引まねぎにつれられて寄り来る客はきつねか、鹿しかか、またはうさぎか、野馬ばかり。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
下方したかたが出来る処から出入町人の亭主に心安い者があって、其処そこにいると云うが、今日こんにちは幸いな折柄で
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
本陣の表通りから下方したかた裏通りまでの高塀たかべいはことごとく破損した。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そらざまに取って照らすや、森々しんしんたる森のこずえ一処ひとところに、赤き光朦朧もうろうと浮きづるとともに、テントツツン、テントツツン、下方したかたかすめてはるかにきこゆ)
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……この方はね、踊のお師匠さんでしたとさ。下方したかたもお出来なすって、……貴方お聞きなさいよ。
むかし読本よみほんのいわゆる(名詮自称みょうせんじしょう。)に似た。この人、日本橋につまを取って、表看板の諸芸一通ひととおり恥かしからず心得た中にも、下方したかたに妙を得て、就中なかんずく、笛は名誉の名取であるから。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
座敷は三人が一組、姉株の芸妓げいしゃが二人、これに蝶吉が、下方したかたを持っていてくのであった、といって、いつか雪の降る、身の毛を悚立よだてて梓にその頃の難苦を語ったことがある。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
踊が上手うまい、声もよし、三味線さみせんはおもて芸、下方したかたも、笛まで出来る。しかるに芸人の自覚といった事が少しもない。顔だちも目についたが、色っぽく見えない処へ、なまめかしさなどはもなかった。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)