上潮あげしお)” の例文
止せばいのに、上潮あげしおばなで船がガッシリ岸へ着いて居りまするから、仙太は身軽にひらりと岸へ飛び上り、の頭巾をかぶった侍のうしろへ廻る
折柄おりから上潮あげしおに、漫々まんまんたるあきみずをたたえた隅田川すみだがわは、のゆくかぎり、とお筑波山つくばやまふもとまでつづくかとおもわれるまでに澄渡すみわたって、綾瀬あやせから千じゅしてさかのぼ真帆方帆まほかたほ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
やむをえず河岸へ出たものだ。ところがちょうど引汐時ひきしおどきであったから、それへ荷物をウーンと出したものだ。すると、また上潮あげしおになって来て、荷物は浮いて流れ出す。
夏の下町の風情ふぜいは大川から、夕風が上潮あげしおと一緒に押上げてくる。洗髪、素足すあし盆提灯ぼんちょうちん涼台すずみだい桜湯さくらゆ——お邸方や大店おおだなの歴々には味えない町つづきの、星空の下での懇親会だ。
人が生れるのは上潮あげしおの時だ、そういうことまで思い出された。
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)