一籠ひとかご)” の例文
時雨しぐれれた木木のこずゑ。時雨に光ってゐる家家の屋根。犬は炭俵を積んだ上に眠り、鶏は一籠ひとかごに何羽もぢつとしてゐる。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
松平信祝からの火急の使者が来たので、紀州家附家老つけがろう、安藤帯刀たてわきは、自慢の南紀重国なんきしげくにの脇差と、蜜柑一籠ひとかごとを、家来に持たせて、かごを急がせてきた。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
余は病牀でそれを待ちながら二人が爪上りのいちご畑でいちごをんでいる光景などをしきりに目前に描いていた。やがて一籠ひとかごのいちごは余の病牀に置かれるのであった。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
一升の小豆あずきか、一籠ひとかご蔬菜そさいか、或いは一本の木材に過ぎないものであったかもしれないが、名もない田舎の郷士だの田野の民が、伝手つてを求めて、ひそかに御所へ献納をねがい出ているためしも多い。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕は意を決して、あの冷雨の朝、Q島政府差廻しの成層圏機の客として、(おそらくはなはだ悲痛な顔をして)ハネダ空港を飛び立つた。そのとき君は、温室咲きの紅バラを一籠ひとかご、僕にことづけたつけね。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
彼は肴屋さかなや蠑螺さざえ一籠ひとかごあつらえ、銀子を促した。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
僕等はその時にどこへ行つたのか、かく伯母をばだけは長命寺ちやうめいじの桜餅を一籠ひとかごひざにしてゐた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)