一山いっさん)” の例文
一山いっさんせみの声の中にうもれながら、自分は昔、春雨にぬれているこの墓を見て、感に堪えたということがなんだかうそのような心もちがした。
樗牛の事 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
円道はじめ一山いっさんの僧徒もおどりあがって歓喜よろこび、これでこそ感応寺の五重塔なれ、あら嬉しや、我らが頼む師は当世に肩を比すべき人もなく
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と言うと、持った杖をハタとげた。その風采ふうさいや、さながら一山いっさんの大導師、一体の聖者のごとく見えたのであった。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人は知らず、ここは死を笑って享受きょうじゅできる人間たちだけで坐ろうとしている菩提ぼだい一山いっさんなのだ。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
洛中らくちゅう是沙汰これさた。関東一円、奥州まで、愚僧が一山いっさんへも立処たちどころに響いた。いづれも、京方きょうがた御為おんため大慶たいけいに存ぜられる。此とても、お行者のお手柄だ、はて敏捷すばやい。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
依怙贔屓えこひいきである)と、ののしった一山いっさん大衆だいしゅも、今では、口を黙して
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
散策子は思わず海のかたきっと見た。波はたいらかである。青麦につづく紺青こんじょうの、水平線上ゆき一山いっさん
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
和尚の大酔に一山いっさんもゆるぐ事
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まったく、一山いっさんの仏たち、おおき石地蔵いしじぞうすごいように活きていらるる。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)