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ばんく
遁るゝこそ
優ならめ
然ながら如何なる因果の報いにや我
幼少にて父に
後れ
艱難辛苦の其中に又母をも
亡ひしかど兩親の
遺言を大事に守り江戸にて五ヶ年の千
辛萬苦も水の
泡蟻の
塔を
組鶴の
粟を
進め
別段何も珍らしき事も御座らぬが
差當り
不思議と申は私が江戸表にて千
辛萬苦して
貯へた金子が一昨夜
紛失致ました其譯は定めし皆々樣も御
聞成れたで御座らうが其金子は
島田宿の水田屋へ預け置右の代りに持て參りし
證據の
日蓮樣の
直筆の
曼陀羅一昨夜
中に私が所で
紛失し誠に五年の辛苦は
またむかし
武田勝頼が
三河の
長篠城を囲み、城中
食尽きもはや
旬日を支え得なかった時、
鳥居強右衛門が
万苦を
冒して重囲を
潜り、
徳川家康に
見えて救いを乞い