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はなぞめ
盛りと
咲亂れ晝と雖も
花明りまばゆきまでの
別世界兩側の引手茶屋も
水道尻まで
花染の
暖簾提灯軒を揃へて
掛列ね萬客の出入袖を
恍惚した
小児の顔を見ると、
過日の四季の
花染の
袷を、ひたりと目の前へ投げて
寄越して、
大口を
開いて笑った。
稽古の窓に向つて
三諦止觀の月を樂める身も、一
朝折りかへす
花染の
香に
幾年の
行業を捨てし人、
百夜の
榻の
端書につれなき君を怨みわびて、亂れ
苦き
忍草の露と消えにし人
脚絆を堅く、
草鞋を
引〆め、背中へ十文字に
引背負った、四季の
花染の
熨斗目の
紋着、
振袖が
颯と
山颪に
縺れる中に、女の
黒髪がはらはらと
零れていた。
もうお目に
懸られぬ、あの
花染のお
小袖は
記念に私に下さいまし。