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夜陰のこんな場所で、もしや、と思う時、掻消かききえるように音がんで、ひたひたと小石をくぐって響く水は、忍ぶ跫音あしおとのように聞える。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜陰やいんのこんな場所で、もしや、と思ふ時、掻消かききえるやうに音がんで、ひた/\と小石をくぐつて響く水は、忍ぶ跫音あしおとのやうに聞える。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
博士神巫いちこが、亭主が人殺しをして、唇の色まで変って震えているものを、そんな事ぐらいでめはしない……冬の日の暗い納戸で
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぱう小高こだか土手どてると、いまゝでいてかぜむだ。もやかすみもないのに、田畑たはたは一めんにぼうとして、日中ひなかはるおぼろである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
取縋とりすがる松の枝の、海を分けて、種々いろいろの波の調べのかかるのも、人が縋れば根が揺れて、攀上よじのぼったあえぎもまぬに、汗をつめとうする風が絶えぬ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前刻さっきから響いていた、鉄棒かなぼうの音が、ふッとむと、さっさっと沈めたわらじの響き。……夜廻りの威勢の可いのが、肩を並べてずっと寄った。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このしおに、そこら中の人声をさらえて退いて、はてはるか戸外おもて二階の突外とっぱずれの角あたりと覚しかった、三味線さみせんがハタとんだ。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風はそのままんでいる。広い河原にかすみが流れた。渡れば鞠子まりこ宿しゅくと聞く……梅、若菜わかなの句にも聞える。少し渡って見よう。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なぎさなみの雪を敷いて、砂に結び、いわおに消える、その都度つど音も聞えそう、ただ残惜のこりおしいまでぴたりとんだは、きりはたりはたの音。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……二人ふたり三人さんにん乘組のりくんだのも何處どこへかえたやうに、もう寂寞ひつそりする。まくつてとびらろした。かぜんだ。汽車きしや糠雨ぬかあめなか陰々いん/\としてく。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はてな、と夫人は、白きうなじまくらに着けて、おくれ毛の音するまで、がッくりとうちかたむいたが、身のわななくことなおまず。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そつゆすぶる、したがつてゆすぶれるのが、んだうをひれつまんで、みづうごかすとおな工合ぐあひで、此方こちらめればじつつて、きもしづみもしないふう
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
汽車きしやさかさまちてまない。けむりいのがいはくづして、どろき/\、なみのやうなつちあふつて、七轉八倒しちてんばつたうあがきもだゆる。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鰒汁てっぽうとこいつだけは、命がけでもめられねえんだから、あの人のお酌でも頂き兼ねねえ。軍医の奥さんにお手のもので、毒薬いっぷくられちゃ大変だ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
トタンにくだんの幽霊は行燈あんどんの火を吹消ふっけして、暗中を走る跫音あしおと、遠く、遠く、遠くなりつつ、長き廊下の尽頭はずれに至りて、そのままハタとむべきなり。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(何だい、)と聞かれたので、法学士が大口開いて(掏摸だよ。)と言われたので、ふッつりめる気になったぜ、犬畜生だけ、なさけにはもろいのよ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あツ、」とまたはげしい婦人おんなの悲鳴、此のときには、其のもがくにつれて、はんの木のこずえの絶えず動いたのさへんだので。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ、可い加減にして、はやく一人貰っちゃどうだ。人の事より御自分が。そうすりゃ遊蕩あそびみます。安保箭五郎悪い事は言わないが、どうだ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一ツずつそのなかばを取りしに思いがけず真黒なる蛇の小さきが紫の蜘蛛くも追いけて、縦横たてよこに走りたれば、見るからに毒々しく、あまれるは残してみぬ。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とはらりと立って、はぎ白き、敷居際の立姿。やがてトントンと階下したへ下りたが、泣きまぬ譲を横抱きに、しばらくして品のいい、母親のなりで座に返った。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
首途かどでに、くそ忌々いまいましい事があるんだ。どうだかなあ。さらけめて、一番新地で飲んだろうかと思うんだ。」
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ、何にしろ困ったものだ、今夜にも宵啼がみさえすりゃ、ああもこうもないんだけれど、留まなきゃあ、事のねえ内よ、気の毒だが仕方がねえ。」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おいらはめようと思ったが、この景気じゃあ、とても引込ひっこんでいられない。」「はあ、何に化けるね。」
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身のわななくのがまだまねば、腕を組違えにしっかと両の肩を抱いた、わきの下から脈を打って、垂々たらたらつめたい汗。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちてもりしづかに、かぜむで肅殺しゆくさつつるところえだ朱槍しゆさうよこたへ、すゝき白劍はくけんせ、こみち漆弓しつきうひそめ、しもやじりぐ。峻峰しゆんぽうみな將軍しやうぐん磊嚴らいがんこと/″\貔貅ひきうたり。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ええ、物好ものずきに試すって、呼んだ方もありましたが、地をお謡いなさる方が、何じゃやら、ちっとも、ものにならぬと言って、すぐにおめなさいましたの。」
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いずれも踊りむ。後の烏三羽、身を開いて一方に翼を交わしたるごとく、腕を組合せつつ立ちてながむ。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いづれも踊りむ。後の烏三羽、身をひらいて一方に翼をはしたる如く、腕を組合くみあわせつゝ立ちてながむ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それから戸外おもてへ出ると雪はもうんでいた、寮の前へくとひっそりかんよ。人騒せなと、思ったけれど、あやまる分と、声をかけて、戸を叩いたけれど返事がねえ。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、そのまま何もなくバッタリんだ。——聞け、時に、ピシリ、ピシリ、ピシャリと肉を鞭打むちうつ音が響く。チンチンチンチンと、かすかに鉄瓶の湯がたぎるような音がまじる。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巡査の靴音が橋の上にんで、背後向うしろむきのその黒い影が、探偵小説の挿画さしえのように、保険会社の鉄造りの門の下に、寂しく描出えがきいだされた時、歎息とともに葛木はそう云った。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
処へ、母屋から跫音あしおとが響いて来て、浅茅生あさぢう颯々さっさっ沓脚くつぬぎで、カタリとむと、所在紛らし、谷の上のもやながめて縁に立った、私の直ぐ背後うしろで、衣摺きぬずれが、はらりとする。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「最初は、庭に手水鉢ちょうずばちがあります、その雨戸がカタリといいましたっけ、縁側を誰か歩行あるいて来ます、変だと思ってる内に、広間の前の処で跫音あしおとんだんです。へい、」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其処そこで、どまって、ちょっと気をけたが、もうんでひっそりする。——秋の彼岸過ぎ三時さがりの、西日が薄曇うすぐもった時であった。この秋の空ながら、まだ降りそうではない。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すで目指めざ美女びぢよとらへて、おもふがまゝに勝矜かちほこつた対手あひてむかふて、らぬつくなひの詮議せんぎめろ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一人いていた柿を引手繰ひったくる、と仕切にひじを立てて、あごを、新高しんたかに居るどこかの島田まげの上に突出して、丸噛まるかじりに、ぼりぼりとくいかきながら、(めちまえ、)と舞台へわめく。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遠くで、内井戸うちいどの水の音が水底みなそこへ響いてポタン、と鳴る。不思議に風がんで寂寞ひっそりした。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もしみませぬと、とてみちつうじません、ふりやんでくれさへすれば、雪車そります便宜たよりもあります、御存ごぞんじでもありませうが、へんでは、雪籠ゆきごめといつて、やまなか一夜いちやうち
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
泣いて、……泣いている……と囁く声が、ひそひそと立って、ふとむと寂然しんとした。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
別して、例の縁側散歩はめられません。……一日おいて、また薄暮合うすくれあい、おなじ東の縁の真中の柱に、屋根の落葉と鼻を突合つきあわせてしゃがんで、カーン、あの添水そうずを聞き澄んでいたのです。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「学校へ通うのに足場が悪くって、道が遠くって仕様がないからめたんだ。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
精霊棚の瓢箪ひょうたんが、ひとりでにぽたりと落ちても、御先祖のいましめとは思わねえで、酒もめねえおらだけんど、それにゃつるが枯れたちゅう道理がある。風もねえに芋の葉が宙を歩行あるくわけはねえ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何、お風呂だえ、風呂はめだ。こう見えても余り水心のある方じゃねえ。はははは、湯に水心も可笑おかしいが、どんどん湧いてるは海だろう。——すぐに御膳だ。膳の上で一銚子よ。分ったか。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
壁は白いが、真暗まっくらな中に居て、ただそればかりを力にした、玄関の遠あかり、車夫部屋の例のひそひそ声が、このもの音にハタとんだを、気の毒らしく思うまで、今夜こよいはそれが嬉しかった。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤鬼の面という……甲羅をひっからげたのを、コオトですか、羽織ですか、とに角紫色の袖にぶら下げた形は——三日月、いや、あれは寒い時雨しぐれの降ったりんだりの日暮方ひくれがただから、蛇の目とか
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私が居る……この朝だけ、その鷭うちめさしてはもらえないだろうか。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「うんや、ここいらを歩行あるくのに怨霊おんりょう得脱とくだつさせそうな頼母たのもしい道徳は一人も居ねえ。それに一しきり一しきりひッそりすらあ、またその時の寂しさというものは、まるで時雨がむようだ。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……おとさへ、むか、とみゝひゞいて、キリ/\とほそとほる。……
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、わしは、無駄むだぢやめい、とすゝめる……理由わけうてかさう。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
きのこだからえるとつて、むしつてはて、むしつてはてたので、やがてえうんで、一家いつか何事なにごとさはりもなかつた——鐵心銷怪てつしんくわいをけすえらい!……と編者へんじやめてる。わたしわらはれても仕方しかたがない。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)