かん)” の例文
だから、く/\好きな者になると、真夏でも何でも、小堀を攻めて、鮒を相手に楽んでるです。食べては、かんに限るですが…………。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
その森の梢にはたくさんのさぎが棲んでいるが、かん三十日のあいだは皆んな何処へか立ち去って、寒が明けると又帰って来る。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
以上いじようはなししたのは、つゞめていふとあつ𤍠帶ねつたいからだんおんかんといふふうにその各地方かくちほうてきしてよくそだ森林しんりん區域くいきと、そのたい特徴とくちようとでした。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
往来に氷が張っているかん中でも堂々と店をつづけていて、さすがに客は滅多に見受けなかったが、それでも時々二重回しに襟巻えりまきをした客が
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
「そうそう、今年の正月、水門じりのお前の家でつかみ合いをやって、あの率八の奴にかんの水を浴びせかけられたきり、会わなかったんだね」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
去年きょねんれ、ぼりへいったときに、おじいさんが、「新年しんねんは、三がにちあいだ懸賞けんしょうつきで、かんぶなをたくさんいれますよ。」
ある少年の正月の日記 (新字新仮名) / 小川未明(著)
多分ひどいかんが来さうなので、嘆いてゐるのであらう。犬は体を己の足に摩り寄せて、鼻端はなつらを突き出して、耳を立てて、闇の中に気を配つてゐる。
然れども幸か不幸か、余は今なほ畳の上に両脚りょうきゃくを折曲げ乏しき火鉢の炭火によりてかんしのぎ、すだれを動かすあしたの風、ひさしを打つ夜半の雨を聴く人たり。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それでも、十八歳の時から三年間、かん参りをしたことがある。雨の夜も雪の晩も白の行着一枚で、もっとも、褞袍に外套の寒参りなんというのはないが。
噺家の着物 (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
二月といってもまだかんが明けたばかり、まして真夜半のことである。川原を吹き渡ってくる寒風は肌を刺してたえ難かった。数カ所で焚火が燃えだした。
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
暦の上では春になったが、寒さはまだきびしく、川から吹きあげてくる夜風は、かんの内よりもかえって凛烈りんれつである。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
『なに吉さんはあの身体からだだものかんにあてられるような事もあるまい』と叔母は針の目を通しながら言えり。
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かん桓帝くわんていとき劉褒りうはう雲漢うんかんゑがく、るものしよおぼゆ。また北風ほくふうゑがく、るものかんおぼゆ。
聞きたるまゝ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
きじなんぞは、土用中、おとりにして一時間も置くと死んでしまうけれど、千鳥だけは、土用中でも、かんのうちでも、何時間おいてもビクともしないそうです——しかし
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
黒く染めたる頭髪かみあぶらしたたるばかりに結びつ「加女さん、今年のやうにかんじますと、老婆としより難渋なんじふですよ、お互様にネ——梅子さんの時代が女性をんなの花と云ふもんですねエ——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
打ち見たところ、首をかしげて、何考えるかかんかえるの寒そうな、ちょっぴり温めてくれようか
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
アア妾は今めたるか、覚めてまた新しき夢に入るか、妾はこの世を棄てん、この世妾を棄つる乎。進まん乎、妾に資と才とあらず。退しりぞかん乎、おそうてかんとは来らん。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
十一月に少々凍ったが、これもかんに入ると解け、ちょうど、三、四月頃の気候であった。
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
かんし、うえしょくするはこの人格を維持するの一便法に過ぎぬ。筆をすずりするのもまたこの人格を他の面上に貫徹するの方策に過ぎぬ。——これが今の道也の信念である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かんになって少し寒い日が来たと思ったら、すぐその翌日から高い熱を出してひどい咳になってしまった。胸の臓器を全部押し上げて出してしまおうとしているかのような咳をする。
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
ここらあたりにもまた沢山たくさんの湯がわいておる。湯坪ゆつぼという村にはすじ湯、大岳おおたけ地獄、疥癬ひぜん湯、河原の湯、田野たのという村には星生ほっしょうの湯、中野の湯、かんの地獄、うけくち温泉というのがある。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
天寒のつよきよわきとによりて粒珠つぶの大小をす、これあられとしみぞれとす。(ひようは夏ありそのべんこゝにりやくす)地のかんつよき時は地気ちきかたちをなさずして天にのぼ微温湯気ぬるきゆげのごとし。天のくもるは是也。
時これ十二月かんの土用に際して、萬物ばんぶつ結目むすびめちゞまりすくみ、夜天やてん星斗せいと闌干らんかんたれど
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
「このままここにこうしておいでになっちゃア、奥さんはかんまでは持ちますまい」
初雪 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
お感心にかん三十日の間跣足はだし参りをなさる、手前も五十八歳になる母が一人ございますが、少し風を引いて頭痛がすると云われても、しものことがありはしないかと思って心配するのは
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
が何しろ身体が尫弱ひよわいところへ、今年は別してかんじが強いのと、今一つはお作が苦労性で、いろいろの取越し苦労をしたり、今の身の上を心細がったり、表町のうちのことが気にかかったり
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かんは二、三日前に明けたけれども、朝から底冷えのするような寒さだった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
冬は朝早くからかんざらいといって長唄ながうたのおさらいをする。午後おひるっからもする。三味線の音がよく聞えるので、ソラおあぐさんはおさらいだと私も三味線をもたされるので、その方角は鬼門だった。
十四年のかんが明けて間もなく或る日の事であつた。はればれした様子で訪ねて来た景子は、私の家に近い場所に、も一ヶ所カタクリの別の群落のある処を教はつて来たと、得意さうな様子で話をした。
かたくり (新字旧仮名) / 水野葉舟(著)
いつもいつも日中はどんよりと曇りつづけ、それが夜になると皮肉にもカラリと晴れて、月や星が、冴えた紺色の夜空に冷く輝きはじめる。土地の人びとは、そのことを「かん夜晴よばれ」と呼んでいた。
寒の夜晴れ (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
口唇へ付けるうしべには、かんうしの日にしぼった牛の血から作った物が載りも光沢つやも一番好いとなっているが、これから由来して、寒中の丑の日に水揚げした珊瑚は、地色が深くて肌理きめが細かく、その上
多摩川に砂利あぐる音の風向かざむきをひと日きこえてかんあけずいまだ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
風ふけば吹かるるままに傾きてちひさきかんあけの菊かも
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
「これでかんすすめの全部の上りかね。」
(旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
「あの先生にかゝると成績の悪いものは溜まりません。『さあ、出来るものは此方へ来てストーブの側へ坐れ。出来ない奴は窓のところだ。空気が悪いから開けろ/\』と斯うですよ。僕なんか数学の時間は始終かんざらしでした」
母校復興 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
無縁寺の夜は明けにけりかんねぶつ
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
からさけ空也くうややせかんうち
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
かんの花も凍るよと
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
搖上ゆりあ搖下ゆりおろされ今にも逆卷さかまくなみに引れ那落ならくしづまん計りなれば八かんねつ地獄ぢごくの樣もかくやとばかりおそろしなんどもおろかなり看々みる/\山の如き大浪おほなみは天神丸の胴腹どうはらへ打付たればあはれやさしも堅固けんごしつらへし天神丸も忽地たちまち巖石がんせきに打付られ微塵みぢんなつくだけ失たり氣早きばやき吉兵衞は此時早くも身構みがまへして所持の品は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
然れども幸か不幸か、余は今なほ畳の上に両脚りょうきゃくを折曲げ乏しき火鉢ひばち炭火すみびによりてかんしのぎ、すだれを動かすあしたの風、ひさしを打つ夜半やはんの雨をく人たり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かんかぜに赤くひきしまっている顔は、どこか大人たいじんそうをそなえ、大きくて高い鼻ばしらからあぎとにかけての白髯はくぜんも雪の眉も、為によけい美しくさえあった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうど、そのとき、小田おだ高橋たかはしが、りざおとバケツをげてたっちゃん兄弟きょうだいさそいにきました。日曜日にちようびに、かわかんぶなをりにゆく、約束やくそくがしてあったからです。
ペスをさがしに (新字新仮名) / 小川未明(著)
金色夜叉こんじきやしや中編ちうへんのおみやは、この姿すがたで、雪見燈籠ゆきみどうろう小楯こだてに、かんざきつゝじのしげみにすそかくしてつのだから——にはに、築山つきやまがかりの景色けしきはあるが、燈籠とうろうがないからと、ことさらにゑさせて
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
春にいたれば寒気地中より氷結いてあがる。その力いしずへをあげてえんそらし、あるひは踏石ふみいしをも持あぐる。冬はいかほどかんずるともかゝる事なし。さればこそ雪も春はこほりそりをもつかふなれ。
山地はかんの至ることも早く、白骨しらほねの温泉では、炬燵こたつを要するの時となりました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
暦ではかんのさなかだというのにあぶられるような暑さで、日中は甲板へ出ることもできない。のみならず、凪ぎだとはいえそこは大海のことで、大波も来ればこれはと胆を冷すような風も吹く。
重吉漂流紀聞 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
多摩川に砂利あぐる音の風向かざむきをひと日きこえてかんあけずいまだ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かんのうちから、悦之進どのと根競こんくらべを約束して、毎あさ暁起ぎょうきして、てまえは素槍すやり千振せんぶり、悦之進どのは、居合いあいを三百回抜くというぎょうをやっておりまする」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かねがいくらたかくても、うまいものをひとのたくさんいる東京とうきょうへ、あのおじいさんのとったなまずや、かんぶなは、このとおきたの八郎潟ろうがたからおくられてきたふなのように
都会はぜいたくだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
春にいたれば寒気地中より氷結いてあがる。その力いしずへをあげてえんそらし、あるひは踏石ふみいしをも持あぐる。冬はいかほどかんずるともかゝる事なし。さればこそ雪も春はこほりそりをもつかふなれ。