ぐろ)” の例文
そして左足も捥ぎとられているとみえて、鮮血はすでにドスぐろあたり一帯の草の葉を染め、斑々はんはんとして地上一面にこびりついていた。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そうして私たちはすぐ近くの波止場はとばの方へ足を向けた。あいにく曇っていていかにも寒い。海の色はなんだかどすぐろくさえあった。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
廃頽はいたいした、疲れ切ったような感じ、———どすぐろく濁った、花柳病でもありそうな血色、———ああ云う風に皮膚が一遍たるんでしまっては
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのときはもう、あたりはとっぷりくらくなって西の地平線の上が古い池の水あかりのように青くひかるきり、そこらの草も青ぐろくかわっていました。
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
眉のあいだがうすぐろかげったようになり、まじろがぬ、刺すような眼ざしの中にも、なにか必死の色がほの見える。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
若しこの大群がやゝ遠くを過ぐる時は、海面が急にうすぐろく皺ばむのでした。その他、名も知らぬ魚の族がいろいろの色や形で我等の面前に現はれました。
樹木とその葉:33 海辺八月 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
雲塊の片陰附けばかぐろなる鷹ひとつ飛ぶとさまかはるなし
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
いつの間にか硝子ガラス戸も閉ざされたとみえて、模糊もこと漂っている春の夕暮れの中に、さっきまでの明るい紺青こんじょうの海ももうまったくの、ドスぐろさに変っているのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
永い間枝にしがみついてゐて、そしていよ/\落つる時になるともううすぐろく破れかぢかんでゐる。
あまりき目が現れない、こいさんはずっとうなりつづけに呻って身をもだえておられて、昨日から全然物が食べられず、変などすぐろい青いものをいてばかりおられ、こう苦しくてはとても助からない
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
月い照るかかるかぐろいつかしき地表のしゆんを我がはなくに
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
冬楡ふゆにれのしみみかぐろきほづえにはかささぎらしき巣もあらはなり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
北のかた雲にかぐろき山の英彦えいげんならむ尖りる見ゆ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)