あおぐろ)” の例文
そして夜中用事がなくても呼び起すので、登勢は帯を解く間もなく、いつか眼のふちはあおぐろみ、古綿を千切って捨てたようにクタクタになった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
庭石の根締めになっていたやしおの躑躅つつじが石を運び去られたあとの穴の側に半面、あおぐろく枯れて火のあおりのあとを残しながら、半面に白い花をつけている。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あおぐろくなった躑躅の葉にザブザブ水を撒いてやりながら、何気なく与一の出発の日の事を考えていた。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
くちびるの周りへ、ちょうど子供があんで口のはたをよごしたような風に、あおぐろいシミが出たことがあって、医者に診てもらうと、彼女のその時のはアスピリンの中毒だとのことで
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それからまたしばらくするとおしどりたちはくちばしを胸毛むなげの中に収めて、あおぐろい丸いをおのおのとじた。水の底から老人のふきならす、たえなるふえ音色ねいろがひそやかにのぼりはじめたらしい。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
断崖と丘のはざまから、細い滝がひとすじ流れ出ていた。滝の附近の岩は勿論もちろん、島全体が濃い霧のためにあおぐろく濡れているのである。木が二本見える。滝口に、一本。かしに似たのが。丘の上にも、一本。
猿ヶ島 (新字新仮名) / 太宰治(著)
青白い浮腫むくみがむくみ、あおぐろくま周囲まわりに目立つ充血した眼を不安そうにしょぼつかせて、「ちょっと現下の世相を……」語りに来たにしては、妙にソワソワと落ち着きがない。
世相 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
列車は雨ですっかり濡れて、あおぐろく光っていた。
列車 (新字新仮名) / 太宰治(著)
が、一代の腕は皮膚ひふがカサカサにかわいてあおぐろあかがたまり、悲しいまでに細かった。この腕であの競馬の男の首を背中を腰を物狂おしくいたとは、もう寺田は思えなかった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)