鴈治郎がんじろう)” の例文
幼少の頃父に連れられて興行毎に鴈治郎がんじろうを見に行った自分の身に引き比べなどして、そんなことを考えていたのであったが、新聞で見ると
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「僕は芝居へでも活動へでも行く。職業柄却って世俗に遠ざからないように努めている。南座みなみざには今鴈治郎がんじろうが来ているよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
画でいえば精々栖鳳せいほうとか、鴈治郎がんじろう程度の技巧的名人肌ではなかったか。西洋人の世界一は、口ぐせの場合が多いようだ。
大谷友右衛門ともえもんと云う上方かみがたの千両役者、今で云えば鴈治郎がんじろうと云ったような役者の一座で、江戸に下ったのだが、初めは、江戸の水に合わなかったと見えて
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
四年ばかりも前に鴈治郎がんじろう新富座しんとみざ椀久わんきゅうを出した時に、私と哥津ちやんと保持やすもちさんが見にゆく約束をしました。
妾の会つた男の人人 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
得手えてでないところは早間はやまになるうれいがある。彼女の芸は鴈治郎がんじろうの芸と一脈共通のところがあるかと思われる。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
伝五郎は後に大阪へ下って鴈治郎がんじろうに認められ、かれと長く一座していたが、これも十余年前に世を去った。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鴈治郎がんじろうの一座と、幸四郎こうしろうの組合せであるその芝居は、だいぶ前から町の評判になっていた。廓ではことにもそのうわさが立って、女たちは寄るとさわると、その話をしていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
即ち私は、浄るりと、大阪落語と鴈治郎がんじろうの芝居と雨の如くボツンボツンと鳴る地歌じうたの三味線等において、まずよくもあれだけ温気が役に立ったものだと思って感心している。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
当時の劇界いまだ鴈治郎がんじろうを知らず「紙治」はいと珍しきものなりしが如し。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
改名するだけの興味を持たなかったと言うより、又する機会もなかったのであろう。大変長い源之助で、丁度大阪の鴈治郎がんじろうが若い時の中村鴈治郎から始って、死ぬまで鴈治郎で通したのと同じである。
役者の一生 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
下町のいきと云われる茶屋の板前に感心して見たり、仁左衛門にざえもん鴈治郎がんじろうの技巧を賞美したり、べて在り来たりの都会の歓楽を受け入れるには、あまり心がすさんでいた。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
殊に団十郎が歌舞伎座から一役だけ掛持ちして、「勧進帳」の弁慶を勤める。大切おおぎりには初上はつのぼりの中村鴈治郎がんじろうがやはり歌舞伎座と掛持ちで出勤して、「近江源氏」の盛綱を勤める。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
庸三と母親は、しばらくすると歌舞伎座の二階棧敷さじきの二つ目に納まっていた。それが鴈治郎がんじろう一座の芝居で、初めが何か新作物の時代ものに、中が鴈治郎の十八番の大晏寺だいあんじであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
丹波篠山たんばささやま生れの鴈治郎がんじろうと熊本県人の羽左衛門うざえもんもまた、もっさりした種類と見ていい。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
しかるに姉は、早くから家事を担当させられたので、旅行などに行く暇がなかったせいもあるが、一つには大阪程よい土地はないと云う風に考え、芝居は鴈治郎がんじろう、料理は播半はりはんかつるや
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大阪では子役中の麒麟児きりんじと呼ばれ、鴈治郎がんじろうですらも彼に食われるとかいう噂であったが、初上はつのぼりのせいか、曾我の対面の鬼王と鞘当さやあて留女とめおんなの二役だけで、格別の注意をひかなかった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
金を家へおいて来てから二日ほどすると、藤川から電話がかかり、行ってみると、若林はお神や女中と、鴈治郎がんじろう一座の新富座しんとみざうわさをしており、人気が立っているので、三人でに行くことになった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)