こうば)” の例文
客「イヤ、モー控えましょう。そんなに戴くと胃吉や腸蔵がどんなに怒るか知れません、だがしかし大層好い匂いがしますな、非常にこうばしくってさも美味おいしそうな匂いが」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
……天麩羅てんぷらとも、蕎麦そばとも、焼芋とも、ぷんと塩煎餅のこうばしさがコンガリと鼻を突いて、袋を持った手がガチガチと震う。近飢ちかがつえに、冷い汗が垂々たらたらと身うちに流れる堪え難さ。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぬけろじの中程が恰度、麺包屋ぱんやの裏になっていて、今二人が通りかけると、戸が少しあいて居て、内で麺包を製造つくっている処が能く見える。其やきたてのこうばしいにおい戸外そとまでぷんぷんする。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
秋立つや白湯さゆこうばしき施薬院せやくいん
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「ほれ、——諸国、旅をして存じております。砂浜から、ひょっこりひょっこりと出る芋づるの奴より、この……山の松露が、それこそ真にこうばしい露の凝ったので、いわば松の樹の精根しょうこんでがしてな。」
「ぼんとして、ぷんと、それ、こうばしかろ。」
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)