香染こうぞめ)” の例文
「うむ、見せえ、大智識さ五十年の香染こうぞめ袈裟けさより利益があっての、その、嫁菜の縮緬ちりめんなかで、幽霊はもう消滅だ。」
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
師賢は、轅越ながえごしに、近々と何事か承っていたが、やがてのこと、み手ずから賜わった香染こうぞめ羅衣うすものと、蒔絵の細太刀を拝して、こなたの群れのうちへ退がって来た。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
間もなく香染こうぞめの衣を着た坊さんが、ひげの二分程延びた顔をして這入はいって来た。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
香染こうぞめの衣を着た、青白い顔の、人気のあった坊さんが静々と奥院の方からほのかにゆらぎだして来て、衆生しゅじょうには背中を見せ、本尊菩薩ぼさつ跪座立礼きざりつれい三拝して、説経壇の上に登ると、先刻嫁をののし
香染こうぞめのおん、おなじ色のみ袈裟けさ、まき絵の袈裟ばこをそばにおかれ、寝殿中央に御座あって、まんまえのひさし玉座おましに束帯低う“御拝ぎょはいノ礼”をとられた天皇のおすがたを
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
香染こうぞめ法衣ころもをばさばさと音さして、紫の袈裟けさを畳んだままで、ひじに掛けた、その両手に、太杖ふとづえこごみづきに、突張つっぱって、れて烏の鳴く樹の枝下へ立つと、寺男が、背後うしろから番傘をさしかけた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、調達してきた香染こうぞめの法衣に、おん数珠じゅずまで添えて、押しつけがましく差し出した。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)