頬摺ほゝず)” の例文
利巧で、意地つ張りで、——十二年前、日向の筵の上で、指切りをしたり、頬摺ほゝずりをしたことが、そんなに厄介なことになるとは思ひも寄りません。
取留とりとめもなくわらつた拍子ひやうしに、くさんだ爪先下つまさきさがりの足許あしもとちからけたか、をんなかたに、こひ重荷おもにかゝつたはう片膝かたひざをはたとく、トはつとはなすと同時どうじに、をんな黒髪くろかみ頬摺ほゝずれにづるりとちて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
母親は、娘の繃帶だらけの首を抱き上げて、頬摺ほゝずりでもし度いやうな樣子で、平次の疑ひに抗議するのでした。
青い地味なあはせがよく似合つて、思ひ出したやうに娘の冷たい死顏と頬摺ほゝずりする、痛々しい歎きを見せられて、平次は一歩部屋の中に入つた足を停めたほどでした。
殘つた二人は白旗直八と幇間ほうかんの左孝、二人共、鬼になりたくてなりたくて仕樣のないといふ人間——雛妓を追ひ廻して頬摺ほゝずりするのを鬼の役得と心得て居る人間でした。
抱いたり、搖ぶつたり、頬摺ほゝずりしたり、お常は半狂亂の態ですが、勘太郎はもう息も絶え/″\、脈も途切れて、死の色が、町の子らしい華奢な顏に、薄黒いくまを描いて行くのです。
「大眞面目だよ、抱きついても構はねえ。首の後ろに眞つ赤なあざはないか、それを見極めるんだ。頬摺ほゝずりぐらゐはしたつていゝとも。萬々一だよ、ひげつた跡があつたら、其處で縛つてかまはねえ」
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)