領首えりくび)” の例文
そのひましたがひたりし翁は、これも傘投捨てて追ひすがり、老いても力や衰へざりけむ、水をけり二足ふたあし三足みあし、王の領首えりくびむづと握りて引戻さむとす。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そう云いながら見ると、新九郎の額には大粒の汗がふき出して、たらたらと領首えりくびの方へ流れている。
蕗問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
髪の毛が伸び過ぎて領首えりくびがむさくなっているのが手拭の下から見えて、そこへ日がじりじり当っているので、細い首筋の赤黒いところに汗がえてでもいるように汚らしく少し光っていた。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とちと粘ってなまりのある、ギリギリと勘走った高い声で、亀裂ひびらせるように霧の中をちょこちょこ走りで、玩弄物屋のおんな背後うしろへ、ぬっと、鼠の中折なかおれ目深まぶかに、領首えりくびのぞいて、橙色だいだいいろの背広を着
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いきなりとびかゝって、娘の上に乗し掛っている奴のふんどしの結び目と領首えりくび取捕とッつかまえてうしろの方へなげると、松の打附ぶッつけられ、脊筋せすじが痛いからくの字なりになって尻餅をき、腰をさすって居りまする。