かた)” の例文
妻を相手にこぼしていたのとはうって変って、このかたくなな隣人の心を柔げる興味のために、自分の心持をすっかり取かえてしまった。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
ひがんだ、いぢけた、かたくなな私も、真裸になつて彼等の胸に飛び込んで行くことが出来た。そして、彼等の温いなさけに浸つた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
ドストエフスキーは牢獄でかたくなな野蛮な人々から排斥された時に、軽蔑けいべつと白眼とをもって孤立せずに、それを心から悲しきことに思いましたのでしたね。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
柳河のしをらしい藝妓や舞子がかたくななな主人の心まで浮々するやうに三味線を彈き、太皷をたたいた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
眉をしかめたり、口をすぼめたりして、これは合図をせずにはいられない場合であった。家族も来ているのだ。手をひろげている邪気のない子供らには、かたくなな顔も見せられなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
駄菓子と荒物と草鞋わらぢの中に、縛られたまゝかたくなにうなだれてゐる伊三郎の樣子を見ると、お絹は先刻さつきから、こみ上げる激情に唯もうおろ/\するばかりでしたが、錢形平次の問ひを受けると
だが、彼女はそれっきりかたくなに黙りこんだ。私も仕方なく黙っていた。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
代々かたわ者と生まれて乞食す、山中の猿とはこの者と、六月二十六日上洛じょうらく取り紛れ半ば、かの者の事思い出で、木綿もめん二十反手ずから取り出し猿に下され、この半分にて処の者隣家に小屋をさし
「そんなに、かたくるしくしないが良い、お前とは天縁がある」
賈后と小吏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
(直き時計はさまかたく、 ぞうに鍛へしは強し)
文語詩稿 一百篇 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
かたくなのひとゆゑに
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)