鞍部あんぶ)” の例文
そして目下の終点は、千九百十二年に開通になったユンクフラウ・ヨッホで、丁度ユンクフラウとメョンヒの間の鞍部あんぶまで達している。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
峠を意味するフランス語だが、鞍部あんぶとでもいった方が判りが早いであろう。つまり二つの高い峰をつなぐ尾根の最低部を指すのである。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
左右の麓を回れば暇がかかる、正面を越えるなら谷川の川上、山の土の最も多く消磨した部分、当世の語で鞍部あんぶを通るのが一番に楽である。
峠に関する二、三の考察 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
観測所のある山稜は、今一つの高山、一万三千七百フィートのマウナ・ケアとちょうど対峙たいじした形になっていて、その間に広い鞍部あんぶ地帯がある。
黒い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
登るに従い、小谷が幾条にも分れる。気をつけていぬと、わからぬほど浅い、が最初の鞍部あんぶに出るまでは、右へ右へと取って行けば、道を誤る事はあるまい。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
私達は今妙見岳の鞍部あんぶ、直下三千尺の渓谷赤松谷を見下みおろした真上に立っている。海岸線にむかって幾つかの尾根が、美しいひだを作って、放射状に走っている。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
華表とりゐのあるところ、即ち峠の鞍部あんぶまで下から十丁位しかなかつた。私はそこに行つて思はず立尽した。
旅から帰つて (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
鞍部あんぶ懸垂けんすいしているが、アルプスのベルニーズ・オーバアラント山地あたりの大氷河に比べると、恐らく雛形ひながたぐらいの小さいものだろうが、それでも擬似ぎじ氷河ではない。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
この山を越して隣りの領地へぬけるには、「木戸」のあるその鞍部あんぶしかない。戦国末期まではそこにとりでがあったというが、木戸が造られてからでも百五十年以上は経っている。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
馬の脊の樣な狹い山の上のやゝ平凹ひらくぼになつた鞍部あんぶ、八幡太郎弓かけの松、鞍かけの松、など云ふ老大な赤松黒松が十四五本、太平洋の風に吹かれて、みどりの梢に颯々の音を立てゝ居る。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
馬のの様な狭い山の上のやゝ平凹ひらくぼになった鞍部あんぶ八幡はちまん太郎たろう弓かけの松、鞍かけの松、など云う老大ろうだいな赤松黒松が十四五本、太平洋の風に吹かれて、みどりこずえ颯々さっさつの音を立てゝ居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
鞍部あんぶの小屋の煙出し ああそれも 去年のままにかしいでゐる
山果集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
陸軍などの人は御職掌がらか鞍部あんぶと言われている。タワ・タオのごときはいわゆる標準語として承認せられたことのある語で、『新撰字鏡』にも出ている。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
針ノ木峠は蓮華岳(二七九八)と針ノ木岳(二八二〇)との中間の鞍部あんぶにある。峠といっても二千五、六百米の高さを持っているのだから、下手な山よりは遥かに高い。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
あとでわかったのだが、それは甘利山の頂上尾根が、奥の山へと続く、鞍部あんぶであった。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その鞍部あんぶを越して、反対に南に下りると、フィルンの終りは殆んど直角に折れ曲った、フィンシュテラール・グレッチャーから、ウンテラール・グレッチャーとなって、グリムゼルへつづいてゆく
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)