険岨けんそ)” の例文
そのあたりは険岨けんそで馬にっていくことができないので、馬を下男にわたして帰し、独りになって、うねりくねった山路を越えていった。
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
関所で駕籠乗物の用意をするというのを謝絶ことわって、やはり馬で行きました。険岨けんそな道へかかったら馬から下りて歩くと言って出て行きました。
道もない険岨けんそな山をきわけて登り、水の音を聞いてこの谷に降りて来た。やぶと木の根を伝い、岩をとび越えまた水の中を押し渡り、砂礫されきを踏みつけた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
断崖険岨けんその上に建ちまたは周囲を川や湖沢で囲んだものは、自身の出入りに不便であったというだけでなく、日常の用品にも早く欠乏しやすいうらみがあった。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
生死のほども如何いかが相なり候と、恐る/\のぞき申候に、崖はなか/\険岨けんそにて、大木たいぼくよこざまに茂り立ち候間より広々としたる墓場見え候のみにて、一向に人影も無御座ござなく候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
道が二筋に分れて一つは広い道幅のたいらな道であります、それに比べると他の一筋は小石のごろごろと転っている、険岨けんその道で草の中に半分隠れていて余り人の通らない道のようであります。
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これは外道の内部に在るのですから道は余程付いて居るけれども非常に険岨けんそであって普通の者には巡れない。もっとも雪のためにたおされあるいは岩のために進行の出来ない所が沢山たくさんあるそうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「おのおの方は、あまりよく口を利きなさるからそれで疲れるのだろう、すべて険岨けんそを通る時や遠路とおみちをする時は、あまり口を利かない方がよいそうじゃ」
或時谷畠たにはたの里を未明に立ち、智者山ちしゃやま険岨けんそを越え、八草やくさの里に至る途中、夜既に明けんとするのころ深林を過ぐるに、前路に数十歩を隔てゝ大木の根元に、たけ一丈余の怪物よりかゝるさまにて
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)