間遠まどほ)” の例文
なまじひに、詩のなかに姿をおとすときは、はなはだ書割のとぼしい、間遠まどほな姿の、うそ寒いものばかり。わたしの孤独よ。(おまへはそれに似てゐる)
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
三日目の夕方、観覧客の足が大分間遠まどほになつたので、そろそろ入口の戸をしめかけようとしてゐるところに、ぶらりと入つて来たのは夏目漱石氏だつた。
茶話:12 初出未詳 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
その間遠まどほな音から察すると、それは子供の所爲だと云ふことがすぐ解つた。私は一種の好奇心で、耳を聳ててゐた。すると突然先刻の喨然りやうぜんとした女の聲で
受験生の手記 (旧字旧仮名) / 久米正雄(著)
看護婦が間遠まどほに眞白な印象を殘して廊下に輕やかな草履の音を立てた。蟲が一本調子に靜かになき續けてゐた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
ついそこらの近い木立の間にも黒い蔭が濃くなつて、そちこちの間遠まどほな瓦斯燈の灯が、しよんぼりと夜の色になりかけてゐる。あたりは見る/\暗くなつて行くやうに見える。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
次第次第に間遠まどほになり、三日五日の間、それより七日十日の間をへだたり、はじめの程は聞く人も多くありて何の心もなかりけるが、後々は自然とおそろしくなりて、翌年あくるとし
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
昨夜きそこそはろとさ宿しかくもうへたづ間遠まどほおもほゆ 〔巻十四・三五二二〕 東歌
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
さばかり間遠まどほなりし逢瀬あふせなるか、言はでは裂けぬる胸の内か、かく有らではあきたらぬ恋中こひなかか、など思ふに就けて、彼はさすがに我身の今昔こんじやくに感無き能はず、枕を引入れ、夜着よぎ引被ひきかつぎて、寐返ねがへりたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
(くらい天の一方で、間遠まどほに神々の跫音がゆききする——)
(新字旧仮名) / 高祖保(著)