鄙唄ひなうた)” の例文
その歌は、何だか知らないが、うら若い娘の声で、人の無いのを見て、ひとり興に乗ってうたう、この辺ありきたりの鄙唄ひなうたであるらしい。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いま、河鹿かじかながれに、たてがみを振向ふりむけながら、しばんだうま馬士うまかたとともに、ぼつとかすんでえたとおもふと、のうしろからひと提灯ちやうちん。……鄙唄ひなうたを、いゝこゑで——
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
聞くと山伏は、ほッとした顔いろで、おやすいことと、手拍子打って、月を仰ぎながら鄙唄ひなうた一つうたった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中に猿廻しがいて、夕食のあとで猿に芸をさせてみせ、自分でも諸国の珍しい鄙唄ひなうたなどうたった。
雨あがる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おおマダム街の鄙唄ひなうた! おおオブセルヴァトアールの通路の鄙唄! おお夢みる兵士ら! 子供をもりしながらその姿を描いて楽しむかわいいおんなら! オデオンの拱廊きょうろうがなければ
鄙唄ひなうたうたひ
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
うたはくだらない鄙唄ひなうただと思うが、女はさすがに鍛えた咽喉のどであり、それにきょうはいやなお客の前で、胸で泣きながら口で浮つくのとちがい、なんだか心に嬉しいものがあふれて、全く商売気抜きで
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)