郷国くに)” の例文
僕はモウ父親おやぢの死んだ事も郷国くにの事も忘れて、コンナ人と一緒に居たいもんだと思ひました。然し天野君が云つて呉れるんです
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ちぎれた雲の間を通して丁度日本の方で見るような青い空の色を望むことも出来た。つくづく岸本は郷国くにを離れて遠く来たことを思った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
錦子がその相談に郷国くにへ帰ると、すぐあとから美妙斎が追っかけていって、近くの旅館に宿をとって、嫁にもらって行きたいと切り出した。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
弓矢をたずさえて来た弟は、郷国くにの常陸には見受けない鳥獣を猟ってその珍しさに日の過ぐるのを忘れていたが、それも飽きていうようになった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一昨年法科を出て、三菱みつびしへ入ってから、今まで相当な給料をもらっている。その上、郷国くににある財産からの収入を合わすれば、月額五百円近い収入を持っている。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「一ペん郷国くにへ帰りましてね、あすこも陰気でいやだから今度はこっちへ来たんです。」
耕耘部の時計 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
その女性は、和尚の郷国くにとはすぐ近い美作みまさかの七宝寺とやらで育った者であるといえば、和尚とは話も合おう。佳人の笛を聞きながら一せきの美酒は、茶で時鳥ほととぎすという夜ともまた変った味がある。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今ぞ見む郷国くにわらべがどの顔も我によく似る太郎によく似る (妻に)
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
自由、博愛、平等を標語とするこの国には極く富んだものと極く貧しいものとが有るだけで、自分の郷国くににあるような中位ちゅういで快適な生活はないのかとさえ疑った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……で、二人で湯を沸して、飯を喰ひ乍ら、僕は今から乞食をして郷国くにへ帰る処だツて、何から何まで話したのですが、天野君は大きい涙を幾度も/\こぼして呉れました。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「一ぺん郷国くにへ帰りましてね、あすこも陰気いんきでいやだから今度はこっちへ来たんです。」
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その上、郷国くににある財産からの収入を合はすれば、月額五百円近い収入を持つてゐる。が十五円と云ふ金額を、湯河原へ行く時間を、わづか二三時間縮める為に払ふことは余りに贅沢過ぎた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
石本君、生別又かねし死別時、僕は慇懃いんぎんに袖を引いて再逢のを問ひはせん。君も敢てまたその事を云ひ給ふな。たゞ別れるのだ。別れて君は郷国くにへ帰り、僕は遠い処へ行くまでだ。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「お郷国くにはどちらで居らっしゃいますか。」
床屋 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)