うずく)” の例文
その中の一人は、我々の依頼者の若い美しい女性で、口にはハンカチーフを巻きつけられ、全く気絶したように、正体もなく崩れうずくまっていた。
平たい庭石の上に用意して在った炭俵の上にガサガサと土下座をすると、頬冠を取った目明の良助は、そのかたわらから少し離れて、型の如く爪先立ちにうずくまった。
花の下のうずくまりからめたように、そして、なおどこかには、茫然としたものを脱しきれない顔でもあった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にかく市郎の身につつがなかったのは何よりの幸福さいわいであったと、お葉は安堵の胸を撫下なでおろすと同時に、我が眼前めのまえに雪を浴びて、狗児いぬころのようにうずくまっている重太郎を哀れに思った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
へやの奥の押入の前に立てた、新聞ばりの屏風の蔭に、コッソリとうずくまり込みながら、眼の前で、苦しそうに肩で呼吸いきしている福太郎の顔を、一心に見守っていた。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何かいっそう黒い影が、その蔭のすみのところを這いまわって、戸口の前にうずくまったのでした。
わが痩せたる手に捧げ来りてここに置据おきすえたるもの、今や重ねてこれを見て我はそも何とかいわん、胸ふさがりて墓標の前にうずくまれば、父が世にりし頃親しく往来ゆきかいせし二、三の人
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
秀吉は膝を折って、共にそこへうずくまりながら、まるで身寄りの者に親しむように
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しょくの電燈に照らされた板張りの上の小さな火鉢に、消し炭が一パイに盛られている傍に、男と女が寄り添うようにしてうずくまって、れくたれた着物のそであぶっている。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……息が詰まったかと思う腰の痛さを、頭の中心までみ渡らせながら彼は、咄嗟とっさに半身を起してマキリを構えた。眼の前、一けんばかり向うの闇の中にうずくまっている白い物体にむかって身構えた。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)