超然ちょうぜん)” の例文
寺田はしかしそんなあたりの空気にひとり超然ちょうぜんとして、惑いも迷いもせず、朝の最初の競走レースから1の番号の馬ばかり買いつづけていた。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
けれども彼は超然ちょうぜんと(それは実際「超然」と云うほかには形容の出来ない態度だった。)ゴルデン・バットをくわえたまま、Kの言葉に取り合わなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この容態ようだいで氏は、家庭におい家人かじん些末さまつな感情などから超然ちょうぜんとして、自分のへやにたてこもりちであります。
あははは、あんた方御夫婦は、まるで内裏雛だいりびなみたいに、貧乏しながら超然ちょうぜんと澄まし込んでいるからいけない。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世の中を冷笑しているのか、世の中へまじりたいのだか、くだらぬ事に肝癪かんしゃくを起しているのか、物外ぶつがい超然ちょうぜんとしているのだかさっぱり見当けんとうが付かぬ。猫などはそこへ行くと単純なものだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは人情だと思えばそれきりであるが、人情には違いなきも、むべき人情、しからぬ人情である。人はよろしくかくのごとき人情に甘んずるより、いっそう超然ちょうぜんたる人情に達せねばなるまい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
次郎は幼ないころに経験した自分の家の売立の日のことを思い起し、ちょっとほろにがい気持になったが、一方では、そんな場合の父の超然ちょうぜんとした顔付を想像して、何かユーモラスなものを感じた。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
余ヤ土陽僻陬どようへきすうノ郷ニ生レ幼時早ク我父母ヲうしなヒ後初メテ学ノ門ニ入リ好ンデ草木ノ事ヲおさまた歳華さいかノ改マルヲ知ラズ其間斯学ノタメニハ我父祖ノ業ヲ廃シ我世襲せしゅうノ産ヲ傾ケ今ハ既ニ貧富地ヲ疇昔ちゅうせき煖飽だんぽうハ亦いずレノ辺ニカ在ル蟋蟀こおろぎ鳴キテ妻子ハ其衣ノ薄キヲ訴ヘ米櫃べいき乏ヲ告ゲテ釜中ふちゅう時ニ魚ヲ生ズ心情紛々いずくんゾ俗塵ノ外ニ超然ちょうぜんタルヲ
黒田官兵衛(当時まだ主家の姓をうけて小寺氏を称するもまぎらわしきためここにはその本姓を用う)——彼だけはゆうべからこの席にいても至って超然ちょうぜんたる風を示していた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)