赤児あかんぼ)” の例文
旧字:赤兒
三年前までは死んだ赤児あかんぼの泣声がややもすると耳に着き、蒼白あおじろさいの水をかぶったすごい姿が眼の先にちらついたが、酒のお蔭で遂に追払って了った。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
放鳥の機嫌きげんを取つて貰はにやならないのだからつて——わたしだつて、赤児あかんぼの時から手塩にかけたおめえのことだもの、厭だつてもの無理にと言ひたかないやね
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
舌をこきますときは化物が赤児あかんぼでも喰うような顔付を致しまして、すっかり溜飲を吐いてからうがいを致しまして、顔を洗い、それから先ず着物を着替るので、其の永い事
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
可愛いゝ子供も赤児あかんぼも沢山居ります。どうか御姉上様にも御丈夫でいらっして下さいませ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
まだ二三日はある筈だと思って居た赤児あかんぼのミルクが、もう一滴もなくなっていた事を知ったのは今朝であった。が、三人の親たちは其れよりももっと悲惨な事実に気が付いて居た。
小さな王国 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それはあだかも昔の七つさがり、すなわ現今いまの四時頃だったが、不図ふと私は眼を覚ますと、店から奥の方へ行く土間のすみの所から、何だかポッとけむの様な、楕円形だえんけい赤児あかんぼの大きさくらいのものが
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
おさよが私を抱いて赤児あかんぼ扱いにするのを私は表面うわべで嫌がりながら内々はうれしく思い、その温たかな柔らかいはだで押しつけられた時の心持は今でも忘れないのでございます。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
万一ひょっとして軽躁かるはずみな事をしてはならぬと、貞女なおくのでございますから、一歳ひとつになりますおさだと申す赤児あかんぼを十文字におぶい、鼠と紺の子持縞の足利織の単物ひとえものに幅の狭い帯をひっかけに結び
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其処そこで野郎も考へたと見える、いつそ俺と云ふものが無かつたら、女房も赤児あかんぼも世間の情の陰でかへつて露の命をつなぐことも出来ようツてんで、近所合壁へ立派に依頼状たのみじやうのこして、神田川で土左衛門よ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
人の住んで居ない町かと思われる程で、少女が(産婆)の軒燈の前まで来た時、其二階で赤児あかんぼの泣声が微かにした。少女は頭を上げてちょっと見上げたが、其儘すぐ一軒おい隣家となりの二階に目を注いだ。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)