たん)” の例文
彼等の一家は今打ちそろって食卓を囲みながら、父親と、息子と、娘とが、代る代る今日の冒険たんを母親に物語っているのでもあろう。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たんは若い船頭に命令を与える必要上、ボオトのへさきに陣どっていた。が、命令を与えるよりものべつに僕に話しかけていた。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そののろわれた島を私が訪ねた時、此の男は極めて快活な様子で、過去の自分の冒険たんを聞かせて呉れた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
一つの教訓たんとしては首尾整ってもいるが、私などから見ると、これも一種の合理化であって、つまりは古い頃の俗信の一部が、もう稀薄になった結果としか考えられない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いくつかの事実たん披瀝ひれきして、人間「高橋房次」の断面を、私は語ることにしたい。
不思議と思えば不思議、何でもないと言えば何のこともなさそうな事実たんである。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「そうだろうよ」と、私はひとり合点をして、うなずいた。ついに、折竹も語るに落ちたか、魔境中の魔境などと偉そうなことをいうが、やはり結句は、死霊あつまるというエスキモーの迷信たん
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼女はちょっと目礼したぎり、おどるようにたんの側へ歩み寄った。しかも彼の隣にすわると、片手を彼のひざの上に置き、宛囀えんてんと何かしゃべり出した。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ディナーの時間迄ステイヴンスンは独りで寐たまま、休んでは書き、書いては休みする。ロイド少年の画いていた或る地図から思いついた海賊冒険たんを、彼は書続けていた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
たんほとんど左利きのように残りの一片を投げてよこした。僕は小皿やはしの間からその一片を拾い上げた。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)