へつら)” の例文
鬼王あるいはへつらい、あるいは脅してとうとうヤモリから秘を聞き、一度唱えると天門たちまち大いに開け鬼王帝釈に化けて宮中に入る。
其の中に阿部忠五郎という奴は、見掛けは弱々しい奴で、腹の中は良くない奴で、大伴にへつらいまして金でも貰おうという事ばかり考えて居ります。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして、若い音楽家が自分の音楽的天稟てんぴんを話しに来て、彼の同情をひくつもりで彼にへつらうと、それに向かって尋ねた。
独立の気力なき者は必ず人に依頼す、人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐るる者は必ず人にへつらうものなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
すなわち……李太白が玄宗皇帝の淫蕩いんとうと、栄耀栄華えいようえいがへつらった詩を作って、御寵愛をこうむったお蔭で、天下の大詩人となったのを見た呉青秀は、よろしい。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
我はへつらはんことを欲せず。又藝術は我等の批評もて輕重すべきものにあらず。されど我は夫人に告げんとす。夫人よ、かれの即興詩をいかなる者とか思ひ給ふ。
貴様、そういうようなへつらった真似をするから、みんなからもつまはじきされるんじゃ。女将も女将じゃ。
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
いつか一度は、世界のどこかで、めぐり合う幕である。むす子の白々しさに多くの女が無力になって幾分へつらい懐しむのには、こういう秘密な魔力がむす子にひそんでいるからではあるまいか。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
誰れに恐れる事もへつらう事も入らぬ、唯我独尊ゆいがどくそんの生涯で愉快だろうと夢のような呑気のんきな事を真面目に考えていた。それで肺炎から結核になろうと、なるまいと、そんな事は念頭にも置かなかった。
枯菊の影 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と、へつらうように、平馬はいって
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
へつらふ如く、物欲しげに。)
多くの阿呆どもに聞かれたりがやがや言われたりへつらわれたりするよりは、少数のりっぱな人々に愛せられ理解される方が、はるかにましでりっぱではないか。
さる程に此事を伝へ聞きし人々、おのづから、われにへつらひ寄り来るさへをかしきに、程なく藩の月番家老よりお召出めしだしあり。武芸学問、出精抜群の段御賞美あり。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さらばおん身は何故に、世擧よこぞりて我を譽め我にへつらふ時我を棄てゝ去り、今ことさらに我が世に棄てられたる殘躯ざんくの色も香もなきをとぶらひ給ふぞ。われ。情なき事をな宣給のたまひそ。
われわれはいつも裏切られており、彼らはわれわれと同人種であることを許されんために、敵にへつらってばかりいるのだ——民衆からわれわれは見捨てられていて
と三好がへつらうように又野を見上げた。その時に又野がパッタリと立止まった。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)