請負師うけおいし)” の例文
彼女のいわゆる夫というのは何でも、請負師うけおいしか何かで、存生中ぞんしょうちゅうにだいぶ金を使った代りに、相応の資産も残して行ったらしかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
前に立つのは、印半纒しるしばんてんに、鼠羅紗ねずみらしゃの半ズボン、深ゴム靴、土木請負師うけおいしといった風体ふうてい、だが、こんな老いぼれ請負師ってあるものだろうか。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
花屋敷をまわって、観音堂かんのんどうに出て、とびらの閉ってしまった堂へ上って拝んでみた。私の横にはゲートルをはいた請負師うけおいし風の男が少時おがんでいた。
貸家探し (新字新仮名) / 林芙美子(著)
土地の請負師うけおいしだって云うのよ、頼みもしないのに無理に引かしてさ、石段の下に景ぶつを出す、射的しゃてきの店をこしらえてさ、そこに円髷まるまげが居たんですよ。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
考えてみると請負師うけおいしや大工に言ったくらいでねずみが防ぎきれるものならば大概の家にはねずみがいないはずである。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お父さんというのは、相当に大きな請負師うけおいしだったそうで、だから、もとは何かかたぎの商売でもやっていたんでしょうが、それがどうして芸人になったのか。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
あるいは男の子のズボンがひざの下何寸かに垂れ下っていて上着うわぎに大きなバンドがあり、それへいきな帽子を着せたものだから、遠く望むと請負師うけおいしの形であったりする。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
と、シンプソン病院の受付に、真青まっさおになってとびこんで来た五十がらみの請負師うけおいしらしい男があった。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つづいて尻端折しりはしおり股引ももひきにゴム靴をはいた請負師うけおいしらしい男の通ったあとしばらくしてから、蝙蝠傘こうもりがさと小包を提げた貧しな女房が日和下駄ひよりげたで色気もなく砂を蹴立けたてて大股おおまたに歩いて行った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「近藤さん、これがあなたの分です。ここで着更えをして下さい。あなたは印半纒しるしばんてんの職人になるのですよ。僕はその親分の請負師うけおいしという訳です」
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
構造物の材料や構造物に対する検査の方法が完成していれば、たちの悪い請負師うけおいしでも手を抜くすきがありそうもない。
断水の日 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もと請負師うけおいしか何かの妾宅しょうたくに手を入れて出来上ったその医院の二階には、どことなくいきな昔の面影おもかげが残っていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この客は東京のものか横浜のものか解りませんが、何でも言葉の使いようから判断すると、商人とか請負師うけおいしとか仲買なかがいとかいう部に属する種類の人間らしく思われました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)