該博がいはく)” の例文
その話がまた、いちいち該博がいはくで、蘊蓄うんちくがあって、そしててらわずびずである。惚々ほれぼれと人をして聞き入らしめる魅力がある。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
グリム兄弟両人の該博がいはくなドイツ古代学の知識と、特に筆録を受けもった弟ウィルヘルムの、素朴な筆致をそなえて、しかも一言一句むだのない名文とによって
『グリム童話集』序 (新字新仮名) / 金田鬼一(著)
僕は北京ペキンに行きたい、世界で一ばん古い都だ、あの都こそ、僕の性格に適しているのだ、なぜといえば、——と、れいの該博がいはくの知識の十分の七くらいを縷々るると私に陳述して
佳日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
該博がいはくな批評家の評註は実際文化史思想史の一片として学問的の価値があるが、そうでない場合には批評される作家も、読者も、従って批評者も結局迷惑する場合が多いように思われる。
浅草紙 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
斎藤先生はたちまちのうちに満座の諸教授の論難攻撃の焦点に立たれたのでありますが、しかし先生は一歩も退かずに、該博がいはく深遠なる議論を以て、一々相手の攻撃を逆襲、粉砕して行かれましたので
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「こりゃ失敬したね。僕は何も君を怒らす心算つもりで云ったんじゃないんだが——いや、ない所か、君の知識の該博がいはくなのには、つとに敬服に堪えないくらいなんだ。だからまあ、怒らないでくれ給え。」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
猥談わいだん、酒談、博戯ばくぎ、悪事と諸芸、道楽の百般にわたって、この老人の該博がいはくさは、驚くべきものだった。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、一同は由の該博がいはくに感心した。ところが感心しない者がひとりいた。割合にむっつりな六である。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あつめ得た考証を材料にして、彼の該博がいはくなあたまがそのまことをどこまで突き究めたかは、最も興味ある問題で、将軍家でも首を長くして待ちあぐねているところであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女院と法皇の関係も、侍者とのあいだも、仏者的口吻こうふんの聖教そのまま、つまり原作者の該博がいはくな仏典の演繹えんえきと、長恨歌ちょうごんか左伝春秋さでんしゅんじゅうなどに影響された文体そのもので終わっている。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど仮令たとえ該博がいはくなる直木三十五の手に触れた書から、以上の参考書をのこらずひっくるめて見ても、そのうちからこれこそほんとの史実だと信用できる武蔵の記録というものは
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の該博がいはくなる知識をもっても解決はつかない。で、遂に意を決し、三軍に出発を令した。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その話がまた、実に多方面で該博がいはくなのに驚かされる。藤孝殿はいつも口癖に
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
医家でも、用いているし、栽培もすすんでいる。日本でもぜひ胚子たねを植えて、上下の民衆に、用いさせてみたいものだ——などと若い知識をもつ僧正の話はなかなか該博がいはくで、経世的けいせいてきであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
訊問に当った桂なにがしは、その該博がいはくに驚いて、すっかり彼に傾倒してしまった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)