袖無そでな)” の例文
それが寒い時候にはいつでも袖無そでなしの道服を着て庭の日向ひなた椅子いすに腰をかけていながら片手に長い杖を布切れで巻いたのを持って
ステッキ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
渋染しぶぞめの頭巾をこうかぶりましてね、袖無そでなしを着て、何のことはない、柿右衛門かきえもんが線香を持ったような……だがふとっちょな醜男ぶおとこでさ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
婆さんは袖無そでなしの上から、たすきをかけて、へっついの前へうずくまる。余はふところから写生帖を取り出して、婆さんの横顔を写しながら、話しをしかける。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
袖無そでなしの上へたすきをかけた伯母はバケツの雑巾ぞうきんを絞りながら、多少僕にからかうように「お前、もう十二時ですよ」と言った。成程十二時に違いなかった。
年末の一日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこへ半蔵の父吉左衛門も茶色な袖無そでなし羽織などを重ねながらちょっと挨拶あいさつに来て、水戸浪士のうわさを始める。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自動車の音を聞いて、伯父は素肌すはだ帷子かたびら袖無そでなしを一枚着たままでとび出して来た。三年ぶりなので、さすが白髪は目立っていたが、思ったよりも元気であった。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
仁右衛門がこの農場に這入はいった翌朝早く、与十の妻はあわせ一枚にぼろぼろの袖無そでなしを着て
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ちょうど夕飯をすましてぜんの前で楊枝ようじ団扇うちわとを使っていた鍛冶屋かじやの主人は、袖無そでなしの襦袢じゅばんのままで出て来た。
芝刈り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自分もあとから出た。爺さんの腰に小さい瓢箪ひょうたんがぶら下がっている。肩から四角な箱をわきの下へ釣るしている。浅黄あさぎ股引ももひき穿いて、浅黄の袖無そでなしを着ている。足袋たびだけが黄色い。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)